聖女様のお世話係として召喚されました。が、聖女様不在なのですが……?
『ルイ様、私は━━』

言葉を発し終わる前に、
突然地面に紋様が浮かび上がった。

「あぁ、やっと来たようだ」

驚く私の肩をそっとルイ様は引き寄せる。
思いがけずにルイ様に肩を抱かれた状態となり、恥ずかくもあり、眩しくもあり、目を閉じていた。

ゆっくりと瞼を持ち上げて、辺りを見る。

光の中から現れたのは、師長様だった


「師長さま?』

「やぁサヤカ様。それにルイ殿。」

「お久しぶりです。伯父上」

『え?』

伯父上?ルイ様とはご親戚だったの?

「スタン伯父上は、私の父の義兄なのだ。」

師長様は魔力が強い故にその能力を見込まれ、ルイ様の伯母様と結婚されたそうだ。

現在師長様になれたのは、実力は勿論だが、後ろ盾も影響しているとか。

ルイ様の一族はかなりの高位貴族のようだ。


「連絡を受けて驚いたよ。
サヤカ様がご無事でなにより。
まさか、あの女性嫌いで冷たいと噂されるルイ殿が女性を看病するなど想像もつきませんな~」

私はルイ様のことが誤解されている気がして、訂正の言葉を紡ぐ。

『ルイ様はとてもお優しいです』

「フォッフォッ。サヤカ様は特別なのでしょう。
普段なら誰かに任せるか、家からすぐに追い出していますでしょうに」

「伯父上、そのくらいで勘弁してください。手紙にも書きましたが、サヤカ殿をしばらくお預かりしてもよいでしょうか」


「え?」

初めて聞かされた手紙の内容だ。

自分の予期せぬ方向に話が進んでいることに戸惑う。


「その件については、陛下にも許可をいただいておる。じゃがサヤカ様はどうされたいですか?」

『……その……預かるというのはどういうことでしょうか?』

「サヤカ様、難しく考えることはありません。
聖女様不在のいま、お城に籠っていても窮屈でしょう?
ルイ殿がついていてくださるなら安心じゃ。

サヤカ様のご事情も、ルイ殿はご存知じゃ。
こちらの都合に巻き込んでしまい申し訳ない。サヤカ様の希望をお聞きしたい」

師長様は私の気持ちを優先に考えてくれる。

『私は、今まで、日々何となく過ごしてきました。
こちらに召喚されてからも。

考えることを放棄していました。
できれば、勉強がしたいです。
この国のことも知りたいし、これからのことも考えられるように。



「ならばルイ殿と一緒に過ごされるとよいかもしれませんな。ルイ殿は優秀な魔術師であり、この国のことにも詳しい。」

「私はサヤカの傍にいられるなら」

ルイ様は私の肩をさらに抱き寄せると、優しく頭を撫でる。


なんだか子供扱いされているようで、恥ずかしい

ぼっと赤面しながらも、言葉を絞り出す

『よ、よろしくお願いします』

「サヤカ様、何かあればいつでもお城へ連絡をお待ちしております。

サヤカ様からの言伝は、私の元へ直接届くように手配しておりますので。
ルイ殿、サヤカ様のことをくれぐれも頼みましたよ。」

「はい、伯父上。」

師長様が手をかざすと、
地面に再び紋様が浮かび上がった。

まばゆい光と共に
師長様の姿は忽然と消えていた。




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