聖女様のお世話係として召喚されました。が、聖女様不在なのですが……?
「サヤカ、途中邪魔が入ったが、私は本気だ。無理強いするつもりはない。だが手放すつもりもない。いきなり私と暮らすのも不安だろう。ひとまず姉の元に行ってもよいだろうか」

『は、はい』

これからルイ様と一緒に暮らすということ…?

目まぐるしく変化する状況に混乱するばかりだ。

そんな動揺する私をルイ様は気遣ってくれる。


こんなに真っ直ぐな好意を向けられたことは初めてかもしれない。

それに、同棲? ということになるんだろうか……

どちらかというと居候になるのかな。

きっとそう、これは単なる居候だ。

期待して傷つくのは嫌。
どう考えても私では釣り合わない


「姉の元へは移動魔法で行こう」

「え?」

返答する間もなく早急にルイ様は私の腰に手を回す。

「えっと、ルイ様?」

何が起こるのか分からずに、ルイ様にされるがまま身を委ねる。

「少しだけ目を閉じてて」
そう耳元で囁かれて言われた通りに目を閉じた。


「もう大丈夫だ」

ゆっくりと目を開けると、私達は大きなお屋敷の入り口に佇んでいた。

『ここは…?』

「私の家でもある。最近はこちらの邸には私は住んでいない。父は仕事でいないだろうが姉はいると思うのだが」


入口に突然現れた私達に驚くこともなく、使用人はルイ様の元へと近づいて来た。

「ルイ様おかえりなさいませ。」

「姉上はいるか?」

「アンナ様はお部屋にいらっしゃいます。」

「行こう」

ルイ様は私の腰に手を回したまま歩き出した。

手を離すタイミングがつかめなかったのかもしれないけれど。



「ここだ」

ある部屋の扉の前まで来ると、ルイ様はノックをする

「姉上、少しよろしいでしょうか」

「ダメと言ってもどうせ入ってくるんでしょ。どうぞ~」

ルイ様のお姉さんということは、貴族のご令嬢。
礼儀正しい振る舞いができるか不安ばかりが募る。
そんな私の不安を払拭するような、
明るい返答に拍子抜けする。

お姉さんは、気さくな方なのかもしれない。

それにしても腰に手を回されたこの状態のまま入るの…?

恥ずかしい……

「では失礼」

室内は白を基調とした家具が綺麗に配置されている。
広々とした素敵なお部屋だった。

お姉さんはどちらにいらっしゃるのかなと
室内を見回す。

ふとソファーに視線を動かすと、寝転んでいる女性がいた。

予想外の体勢で、思わず二度見してしまう。


「姉上⁉︎ そのような体勢は、人前ではおやめくださいと何度も申し上げているではありませんか!」


「も~う、せっかく寛いでたのにうるさいわねぇ。あら、あらあらこちらはどなた?」

「姉上、こちらは訳あって保護しているサヤカ殿です。サヤカ、こちらが姉上だ」

『初めまして。倉━━さやかです。』

言いにくいかもしれないと思い、名前だけを名乗る。

「ようこそお越しくださいました。私はルイの姉、アンナ・エスカルトです」

アンナは寝転んでいたソファーから立ち上がると、優雅に膝をおりカーテシーをする。

流れるような動作で、目が惹きつけられる。アンナ様の周りが明るく輝いているように感じた。

先程寝転がっていた人物と同一人物とは思えない。


アンナ様もルイ様も同じく大変綺麗な方だった。 真っ直ぐな黒い髪にアメジストのような瞳。 二人が並ぶ姿は、一見姉妹のようにも見える。


「ルイ。私の占いのおかげなの?
詳しく聞かせて。 サヤカさんも畏まらないで気楽にこちらにどうぞ~」

くだけた口調で話しかけてくるアンナ様に
一気に緊張の糸がほぐれる。

私とルイ様はアンナ様と向き合う形で座った。

腰に回された手は離れたものの、相変わらず距離が近い

「姉上は少々変わっていて……」

バツの悪そうな顔をするルイ様に、アンナ様はムッとした視線を向ける

「変わっていてってルイの方が変でしょ?

そのルックスで未だに独身なんて。

少しは経験してるのかしら?
ねぇサヤカさんもそう思うでしょう~?」

「姉上、サヤカの前でそういう話しはやめてもらいたい。」

アンナ様に詰め寄られてルイ様は顔をしかめる

「ふ~ん? つまらないわ。それで?今日はどうしたの。」
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