月の王子
月の王子
学校はどういう所?と聞かれたら、私はまず好きな人が居る場所だ、と思う。
正直それ以外は、友達同士の小競り合いなど集団生活の面倒臭さや小難しい勉強なんか、少しも魅力的に見えない。
20分休み。
私は気まぐれに、メモ帳に好きな人に好かれるための秘訣を書き出していた。
グレーの細い薄い線の上にそれは綺麗な文字で並んだ。
誰にでも優しい。
ノリが軽い。
姿勢が良い。
気がきく。
物知り。
花の名前を知っている。
空が好き(だと喋る。)
夜が好き(だと喋る。)
だと喋る、と付けるのは、私が本音と建前を使い分けるのに慣れているからで、ちょっと性格悪いんじゃ、と我ながら思う。
夢中になって書き出していると集中できた。
それはそれで楽しかった。
「古賀さん」
ふいに、声がして顔をあげると谷津蒼が居たので私はぎょっとした。
「な、なに。」
私は蒼が苦手だ。
さらさらの黒い髪も黒い目も整ったルックスは女の子にちやほやされていたが、なんとなく嘘くさい。
その整った見た目で私に頻繁に話しかけてくるのだから妙だ。
彼には一言では言えない様な腹の知れなさを感じる。なんとなく笑顔が怖い。
「委員会の連絡が来てたよ。さっきファイル渡していった。」
蒼はなんの気取りもなく言った。
「分かった。ありがとう。」
「いや、たまたま僕に言われただけだから。」
蒼はそう言うと、笑顔を作って見せてからロッカーの方へ戻って行った。