月の王子
ある放課後。
私は教室の窓からサッカー部の練習を見ていた。
グラウンドに小さく見える、茶色い髪が良太だ。
好きな人が走るのを見ると胸がキュッとなる。
良太は素早く、的確にボールを扱ってシュートを決めた。
急に、ガラガラと教室の戸が開いて、振り向くと蒼が入って来るところだった。
蒼は先生から教材運びを頼まれていたらしく、プリントの束を持っていた。
「古賀さん」
蒼が呼んだ。
「サッカー部の練習に興味があるの?。いつも見てるけど。」
「別に。」
私が言った。
前に言った通り、私は蒼がちょっと苦手なので、深い会話はしないように気をつけていた。
「走ってるのが見えるから見てるだけだよ。興味はない。」
「ふーん。」
それから蒼は窓際の私の隣に来た。
腕を窓枠に凭れさせて、練習を見やる。
「古賀さんって。」
口を開いた蒼が突然そう言ったので、私は息が止まるかと思った。
「どうして知ってるの?」
違うよ、と言う前に驚いた自分が喋るのを聞いた。
「いけない?。知ってたら。」
蒼が普段の調子で言った。
2階の窓から見える、広い広いグラウンドを眺めながら、蒼はのんびりこう言った。
「でも実らないよ。」