月の王子
まだ同じ事がある。
良太はアウトドア派の割に読書家で、よく本を読んだ。
私も読書家な方なので、読書は共通の趣味で、私達はよく本の貸し借りをしていた。
放課後、私は机で、サッカー部の練習を横目で見ながら、良太に借りた小説を読んでいた。
と、ガラガラと戸が開いてまた蒼が入って来た。
「あ」
蒼が言った。
「また小瀬の事見てるの?」
私は答えずに、小説のページを捲った。
「ちょっと」
蒼が言った。
「聞いてる?」
聞いてない、と胸で言った。
私が頑なに無視していると、蒼はスタスタと近づいて来て、そして突然開いていた小説を取り上げた。
「なに」
「古賀さん」
蒼はパラパラと小説を捲った。
「これ、小瀬の?」
「返して」
「もう読み終わった?」
「一応ね」
仕方なく私が言うと、蒼は本をパタンと閉じた。
それから言った。
「渡しておいてあげようか。」
「いいよ」
「渡しとくよ」
蒼が言った。
「この世界には、実らない恋が沢山あって、みんなバランスを調節して暮らしてる。実らない恋を憧れに封じ込めて記念したり、それでも続けたり、やる事は色々あるけど。」
「失礼だよ、谷津くん」
「できれば古賀さんには傷つかないで欲しい。」
そこで、蒼は私の目をまっすぐ見た。
深い色、がらんどうの黒。
「傷ついたら傷ついたで慰めてあげる。けど。」
「しつこい」
混乱した私は蒼の手から小説をひったくろうとしたが奪えなかった。