月の王子
それはしょうがない事だった。
私の頭の中で、谷津蒼が大きくなっていく。
すらりとした後ろ姿も甘い声も、ちょっとスカしてるくすくす笑いも、考えているうちに私の頭の中で全部肥大化していく。
ある日私は、小瀬にラブレターを書いた。
いい女になる秘訣を書いたあのメモ帳を破って。
好きです。 M.K
「何してるの?」
放課後、私がメモを読み返していると、蒼が来て聞いた。
「いや、ちょっと。」
私は魔が差して気まぐれを起こした。
「ラブレター書いてたんだ、小瀬くんに」
蒼は返事をしなかった。
魔が差すというのは恐ろしいものだ。
私は言った。
「小瀬くんに渡しておいてくれないかな」