ひとりぼっちのラブソング

彼の姿を見て気持ちが高鳴るわたし。
今日も切ない歌声を引き寄せられるように、わたしは彼にゆっくりと歩み寄り、弾き語る彼の前にしゃがみ込み、その歌声に聴き惚れていた。

歌が終わると、わたしは一人で拍手をした。

彼はふと顔を上げると、無愛想に「また君か。」と言った。

「わたしのこと覚えててくれたんですね!嬉しい!」

彼はわたしの言葉にそれ以上何も言わず、帰る支度を始めた。
そして、ギターケースを担ぎ帰ろうとしていた。

「あ、あのぉ、居るしたらいつもこの時間帯ですか?!」

帰ろうとする彼の後ろ姿に問いかけるわたし。

彼は一度立ち止まると「そうだな。」とだけ答え、帰って行った。

それからわたしは、バイトがある日は必ずこの場所を訪れるようになった。

いつも彼が帰る間際にしか来られないので、1曲しか聴けないが、それでも良かった。
それでも、彼に会いたかったのだ。

今日も弾き語りが終わり、帰る支度をする彼にわたしは話し掛ける。

「わたし、紺野天音っていいます!お兄さん、名前は?教えてもらえませんか?」

すると、彼は帰り支度に手を止めず、こちらを向かないまま「磯谷凌。」と答えてくれた。

「凌さん!素敵な名前ですね!」

いつも、まるでわたしの独り言のような状態だが、たまに答えてくれることが嬉しくて、わたしは話し掛け続けていた。

そして今日も彼はギターケースを担ぎ、帰ってしまった。
その背中は、いつも寂しそうだった。

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