第二幕、御三家の嘲笑

 と、なると……。鹿島くんの言葉の意味を考えなきゃいけないわけだけれど、御三家と幕張匠に一体何の関係があるというのだろう。〝姫に仕立て上げる〟ということは、御三家が幕張匠を庇わなきゃいけない状況を作り上げたかった? 何のために? そもそも鹿島くんはなぜ私が幕張匠本人だと知っていたのだろう。それを知っている人は本当に限られている。じっと、桐椰くんの背中を見つめた。私が幕張匠本人だと知っている人で、且つ、鹿島くんと関わりがありそうな人は――彼方だけだ。

 うぅん、と首を捻る。でも彼方が鹿島くんに喋るなんて考えられない。小学校はどうだか知らないれど、年齢差的に彼方と鹿島くんが中学・高校で関わることはない。鹿島くんと彼方に面識があるのは、透冶くんの事件のときに彼方が花高に殴りこんだからだ。その程度で私と幕張匠が同一人物であることを喋るほど、彼方は軽率じゃない。あんな飄々としてて軽口ばかり叩いているくせに、彼方の言葉が考えずに発されたことなんてないことは知っている。第一、文化祭で会うまで彼方は私が「幕張匠」であることは知っていても「桜坂亜季」であることは知らなかったんだから……。


「おいどーした、難しい顔して」

「カツアゲされた遥くんのために見た目から不良になろうとして金髪になった桐椰くんはいつになったら黒染めするのかなあって」

「前半要らねぇよな?」

「痛い痛い痛い」


 下駄箱で立ち止まったのをいいことに頬を抓られる。誤魔化しの代償だ。ついでに桐椰くんも答えることはない。


「でもさー、桐椰くん、ちゃんと黒髪似合ってたじゃん? 人気だったじゃん? 今こそ黒髪にして女子人気を博してリーダーに勝利すべきときなのでは?」

「別に興味ねーよ」

「染めるのお金かかるじゃん?」

「そうなんだよな……それが困りどころなんだよな……」


 ほんの冗談だったのだけれど、桐椰くんは眉間に皺を寄せている。だったら染めなきゃいいのに、何か他の理由でもあるのかな。外へ出て傘を差した松隆くんは「そもそもハゲる心配もしろよ」なんて笑っている。雨は少し弱く、小雨程度になっていた。桐椰くんはビニール傘を差しながら「男はみんな時間の問題だろ」なんてどうでもよさそうに答える。


「そういえば松隆のおじさん、まだ髪真っ黒だよな」

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