第二幕、御三家の嘲笑
「結局、一番面白そうなのは桐椰くんと月影くんが当たるときでしょ? 他の女子だってそうだろうけど」

「あぁ、手加減はしないから、生憎とそこも結果は見えているな」

「へぇ、言うじゃねぇか。一試合で二年分のブランクは取り戻せたのか?」

「お前に勝てる程度にはな」


 あれ? どうしてか桐椰くんと月影くんが臨戦態勢に入ってしまった。不穏さこそないものの、二人の口角は不敵につり上がっている。どうやら男の子は勝負事が好きらしい。


「二人の試合って午後の部?」

「あぁ。見に来なくていいぞ」

「多分松隆くんと一緒に見に来るよ?」

「……アイツ鹿島に勝てねぇかな」


 桐椰くんは盛大な舌打ちをかました。我儘なことだ。

 丁度話もひと段落したとき、「おーい、桐椰ー!」と男子の呼ぶ声が頭上から降って来た。三人で揃って顔を上げると、クラスメイトの橋爪(はしづめ)くんがいる。


「試合もうすぐだぞー」

「あぁ、今行く。じゃーな」

「ばいばーい」

「またな」


 橋爪くんは当然一般生徒だ。現役バスケ部員だから頼りになる。因みに、クラスマッチは公平のために各部員が上限二人という縛りを入れられている。生徒会役員の前では実力を発揮できないのに公平もなにもないけれど。

 さて、ぽつんと私と月影くんが残された。この組み合わせは珍しいし、厳しい。一体何を喋ればいいんだ。気まずくて月影くんを見上げると、不愉快そうな顔がこちらを見た。考えてることは同じようだ。


「……お互い空気重いから離れません?」

「君はよくそんなことを堂々と言えるな」

「月影くんのほうが普段からそういうこと堂々と言ってるよ!」

「試合が始まるまで近場で休んでおきたいから俺は移動しない」

「私にどっか行けってこと?」

「好きにすればいい」


 月影の試合が終わったお陰で、ギャラリーは既に散っていた。お陰で座席はかなり空いていて、月影くんが手近なところに座り込んでも、周りには誰もいなかった。多分、桐椰くんの試合が始まるから、もう一つのコートの周辺座席にみんな集中してるんだろう。

 よっこいしょ、とその月影くんの隣に座りこむと、胡乱な目が睨むように私を見た。


「なぜ隣に座る」

「別にいーじゃん」

「空いているのだから離れろ」

「そう冷たいこと言わないでよー」

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