第二幕、御三家の嘲笑
「君はまるで道化師(ピエロ)だな」


 唐突な発言に、目をぱちくりした。脈絡のないように感じられるということは、それは月影くんがかねてより抱いていた所感なのだろうか。


「……どういう意味?」

「以前話しただろう、俺は君を信用しないと。君が自分の何も話さなくても全く構わないが、代わりに俺は君を信用することは決してない」


 その話をしたのは、月影くんのことを知って間もないころだ。といっても、今でもほんの二ヶ月程度だけれど……もっと最初、会話をして一日目とか二日目とか、そのレベルのとき。


「それは今でも変わらない。君には分からないことがごまんとある。挙句の果てに、随分と演技が上手いときたものだ」

「褒められてる?」

「皮肉だ。気付いてないとは言わせない」


 あぁ、厳しいな、月影くんは……。桐椰くんのように、私の言葉に振り回されることはない。松隆くんのように、駆け引きをする気もない。

 そう考えて、月影くんの言動に首を捻った。そうだというのなら、月影くんのいまの台詞は何のためにあるのだろう。


「君が隠していることは、御三家(おれたち)に言えないことか?」


 いつもは眼鏡のレンズ一枚隔てている月影くんの怜悧な瞳が、真っ直ぐに私を射抜いた。


「遼のように拗ねて喚き散らすつもりはない。ただ訊いている、君は、俺達に何も言わないまま残りの高校生活を終えるか、と」


 それは、弾劾にも似た反語的な念押しだった。


「やだなー、月影くん。そんな怖い顔、しないでよ」


 思わぬ伏兵というべきか。一番怖いのは松隆くんだと思っていたのに、月影くんが――私に一番興味のなさそうな人が――こんな直截的(ちょくさいてき)に訊ねてくるなんて、思いもしなかった。お陰で声が幾分掠れる。


「まるで、私が何か言わなきゃいけないことを隠してるみたいに聞こえるよ」

「言わなければいけないことかどうかは知らない。ただ、あまり遼を振り回すなよ」


 ……弾劾だと感じた、先ほどの自分の認識を改めた。


「……どーいう意味?」

「それも分からないと言うつもりか? ……アイツは馬鹿正直過ぎる」


 どうやら、その点に関しては私が本当に分からないのだと分かったらしい。


「もし、君にその気がないなら、早くアイツに諦めさせろ」

「……えーっと」

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