第二幕、御三家の嘲笑
「まだ分からないか? アイツが君に好意に近いものを抱いていると」


 きょとんと、馬鹿みたいに間の抜けた顔で月影くんを見つめてしまった。なに?

 こちらを向いた月影くんはいつも通りの仏頂面だったけれど、少し困ったような顔をして、視線を右下に落としながら溜息を吐いた。


「有体にいえば、アイツは君を好きなんだ」


 その言葉、それ自体の意味を、図りかねるわけがない。


「馬鹿みたいだと、俺も総も思っている。ただ利用すればよかっただけの、下僕じみた扱いの君を、アイツが好きになるなんて思わなかった。アイツは、必死に違うと言い張っている初恋の相手を愚直に探し続けて、見つからないまま、そのうち新しい彼女でも作るものだと思っていた。それなのによりによって相手が君だとは」

「ちょ……ちょっと待って、」

「君だけはやめておくべきだと言うつもりはない。まともじゃない点に関しては大体の女はそうだ。それにしたって、よりによってこんな地雷みたいな女を好きになることはない」

「待ってよ月影くん、」

「本当に、気付いてなかったのか?」


 試すような言い方に息が詰まった。知らない。そんなの知らない。桐椰くんの気持ちなんて知らない。知りたくない。


「さきほども言ったが、君はまるで道化師(ピエロ)だ。いつでも喜怒哀楽を表に出して、天真爛漫なふりをしている。そのくせ頭の中ではいつでも相手との問答をシミュレーションして相手の言葉と印象を操作している」

「……買被りですよ」

「そうかもしれないな。だが少なくとも俺が見ている君は、随分と計算高い。質が悪いともいうべきなのは、大抵の計算高い女は男を手玉に取るのが上手いというのに留まるが、君の場合は、俺達が君のことを何も知らないのに親しくなった気持ちにさせるということだ」


 松隆くんにも、言われたっけ。計算高いね、って。そんなの、計算高いってバレてる時点で計算高くなんかない。バレないようにやらなきゃ、それこそただの道化師(ピエロ)だ。お笑いものだ。


「ただ、俺はそんなことはどうでもいい。他人にある秘密を暴くことが親しむことに必要だとは思わないし、寧ろ間違いだと思っている。ただ、遼に同じことをするのはやめておけ」


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