第二幕、御三家の嘲笑
「松隆くん……」


 そうか、桐椰くんは優しいから、たとえあの蝶乃さんが彼女であっても彼女に危害を成すとなれば松隆くんを叱るんだな……。絶対に折り合いのつかないだろうその喧嘩はどう決着がついたのだろう。続きを聞きたかったけれど、いまはその話がメインではなかったし、月影くんも「まぁ、アイツはそういうヤツなんだ」と締めくくっただけだった。


「あまり長々と話をさせるな。アイツは本当に優しい。そんなアイツを困らせるのはやめろ。菊池雅が君の何かなど、俺にとってはどうでもいいが、アイツにとってはどうでもよくない。君が本当は誰を好きかなど、俺にとってはどうでもいいが、アイツにとってはそうじゃない」


 月影くんが、珍しく、嘆息した。

 月影くんは、もっと、サイボーグというか、ロボットというか、そんなふうに譬えられてもおかしくないくらい、あまり人間味のない人なんだと思っていた。そうじゃなかった。

 そうだ、そうじゃないことくらい、透冶くんの一件で分かってた。月影くんは、冷たくて、横暴で、他人なんて興味がありませんって顔をしている。きっとそれは事実だ。でも、殊友達に関してはそうじゃない。

 御三家の中で、他人へ向ける感情が一番強いのは桐椰くんだと思っていた。でももしかしたら、月影くんのほうが上かもしれない。桐椰くんが誰にでも本当に優しいのとは裏腹に、月影くんは、本当に大好きな友達に対してはとことん甘くて、とことん大切に想ってる。


「君がアイツを好きになる可能性があるというのなら、口出しする話じゃない。だが、君はそうじゃないんだろう。君が遼を好きになるなど、君の中では有り得ない話のはずだ」


 だからきっと、月影くんは私のこともお見通しなんだろう。桐椰くんが感情を手向ける相手だから。


「そんな君に、遼を振り回してほしくない。アイツにはまともな彼女が出来てほしい、それこそ蝶乃とは真逆の。出過ぎた無粋な真似かもしれないが、そのことは頭の片隅にでも置いておいてほしい」


 その言葉は、妙に重く圧し掛かった。月影くんが、私にお願いじみた言い方をするなんて、初めてのことだったから。


「と、今までのことは全て俺の憶測だが」

「え」


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