第二幕、御三家の嘲笑
 なん、だと……。さらりと告げられたたった一言で今迄の空気がぶち壊しにされて頬が引きつった。淡々とポーカーフェイスで延々と語った挙句、憶測だと? なにいってんだこいつ、と言わんばかりの顔をした私に、月影くんは眉尻を吊り上げて見せた。


「大方正解だろう、推定としてくれて構わない」

「随分意味が違うよ!? なんだー、もう吃驚させないでよ。あーもう、月影くんが言うと冗談に聞こえないんだから駄目だよ」


 なんだ、なーんだ。前提になっていたのは月影くんの勝手な推理だったんだ。

 緊張で早く鼓動し始めていた心臓を押さえながら、思わず早口でまくし立ててしまった。なんなら月影くんの肩をバシバシ叩きたかったくらいだ。我ながらあからさまに安堵している。


「だから大方正解だと思われると言っているだろう。少なくとも俺と総はそう睨んでいる」

「睨んでるって、犯人じゃないんだからさ……。桐椰くんから直接聞いたわけでもないんだし」

「あの分かりやすいヤツの口から直接聞く必要があることなど僅少だ」

「……月影くん、言ってることは分かるんだけど、もう少し言い方というものがだね」

「まぁ、当面俺が君にしてほしいことは、アイツの初恋の人でもなんでも見つけてくれといったところだな」


 そんなヒントも何もない人を探してくれと言われても。湖に投げられた指輪を見つけ出すのとどっちが簡単かという話だ。


「そう無茶ぶりをしないでよ……。確かに初恋の人が出現すれば、あの桐椰くんは夢中になるのかもしれないけどさー」


 桐椰くんの初恋の人について分かっているのは、おそらく同い年くらいだろうということと、一目惚れということは桐椰くんの好みのタイプなんじゃないかなってことくらいだ。制服云々の話もしてなかったことからすると、多分桐椰くん自身にも見当がついてない。


「ていうか、その初恋の人が私だったらどーする?」

「君を生徒会に売るか、アイツは女運がとことんないと諦めて見守ってやる」

「月影くんの中で私の扱い酷くない?」

「とにかく、アイツを振り回すのはやめてやれ」


 そろそろ桐椰くんの試合が始まるからか、月影くんは立ち上がった。


「極論、アイツを騙しきってやれと言いたいところだな。アイツが君のことを理解(わか)ったつもりになって、そのまま失恋するのが一番いい」

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