第二幕、御三家の嘲笑
「だからそう決まったわけじゃ……」

「確かに、未だ七〇パーセントといったところだ。……まぁ、君に何を言おうと、結局は遼自身の話だから仕方のないことだがな」

「だったら桐椰くんはバラされ損だね」

「気付かないほうがおかしいんだ、問題ない」

「月影くんは桐椰くんに優しいのか厳しいのかどっちなの?」

「どちらの解釈も好きにすればいいが、最後に一つ伝えておく」


 月影くんは、桐椰くんの試合が始まるコートとは別の方向へ足を向けていた。どうやら応援する気はないらしい。なんだ、立ち上がったのはただタイミングが合っただけか。

 桐椰くんのコートへ向かう私と別れることになり、月影くんは一言放った。


「貫けない秘密は、抱えるな。襤褸(ぼろ)が出る前に話してしまうか、出さないように細心の注意を払うか、どちらかには決めておけ」



 シューズと体育館の床との摩擦音と、選手の掛け声と、女子の黄色い歓声が混ざっている。じっと見降ろす先にいるのは、つい先ほど月影くんが忠告の対象とした桐椰くんだ。まさか月影くんがそんな世話を焼いているなど露知らずバスケに勤しんでいる。


「……素直すぎ、優しすぎ」


 桐椰くんを見ているとそんな形容が浮かぶ。だから松隆くんと月影くんと違って私の言葉に振り回される。


「……ついでに、馬鹿過ぎればいいのになぁ」


 馬鹿過ぎないから、私の言動に裏があることに気付いてしまう。でもそれは私の演技の下手さと表裏一体だ。桐椰くんに求めるのは傲慢もいいとこかもしれない。


「遼くーん!」

「あっ、決まった!」

「桐椰くんこっち向いてー!」


 桐椰くんを応援する女子に囲まれたまま、私は一人黙って頬杖をついたまま桐椰くんを見つめる。あぁ、確かに、桐椰くんってかっこいいんだよなぁ……。一般的にはきっと上の上の部類なのではないだろうか。観客席と廊下を区切るコンクリートの仕切りに腕を乗せて、それに更に顎を乗せて、なんて横柄な態度で観戦する。日頃の桐椰くんは教室で誰と話すわけでもないのに、メンバーの男子とは随分仲が良いようだ。点を決めた後にアシストと軽くハイタッチするなんて普段からは考えられない。ぷくぅ、と頬を膨らませた。

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