第二幕、御三家の嘲笑
「ああ、そうだね。親戚にも驚かれてるよ、いつになったら白髪が出るんだって」

「いくつだっけ?」

「今年で五十五歳かな? まあ、あれを見てる限り、俺は平気そうだと思ってるけどね」

「分かんねーぞ、代々じゃねぇんだから」

「遼は危ないかもな。彼方兄さんは心配してあんまり髪で遊ばないだろ」

「アイツは早くハゲてモテなくなったほうがいい」


 部活なく帰宅する生徒達に混ざって歩きながら、目の前では幼馴染特有の会話が繰り広げられる。友達の親と兄弟を、まるで親戚ような距離感で話すのは仲が良い証拠だ。

 幼馴染、か……。私にはいない、幼馴染。長い付き合いの友達はいないことはなかったけれど、長さだけだ。逆に親友と呼べるほど仲が良かった人とは、ほんの二年程度の付き合いだった……。


「……なあ、あれ、他校生か?」

「本当だ。うちの制服じゃないね」


 唐突に変わった話題にぱちぱちっと瞬きする。二人が見つめる先は、数メートル先の校門付近に佇む一人の男子だ。傘に隠れて顔は見えないし、夏服だから他校生だとは一見分かりにくい。ただ、ブレザーのズボンが真っ黒で、花高の制服――青系統の黒とグレーのチェック――ではなかった。何の柄もないことからすると、多分学ランだろう。


「誰か待ってるのかな?」

「じゃねーの? 雨の日にご苦労なことだな」


 どう贔屓してもご苦労とは思ってなさそうな声音だった。松隆くんも興味なさそうに視線と意識を移す。


「なあ総、コイツ送るの持ち回りにしねぇか?」

「面倒くさがらないでよ、仮にも元彼女だろ?」

「仮のな!」

「晴れてる日なら代わってもいいけど」

「私のために遠回りするのがそんなに嫌なの?」

「半分冗談」


 半分本気なんだ……。持ち回りねぇ、と松隆くんは顔をしかめる。


「桜坂の家って結構遠くない?」

「あー、うん、そうなのかも。保高(ほだか)に住んでるから――」

「あっ」


 続けて徒歩何分かかるか答えようとしたとき、何かを見つけた誰かの声に遮られた。反射的に口を噤んで、声のした方をみる――前に、パシャッと水を跳ねさせて誰かが目の前に現れた。

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