第二幕、御三家の嘲笑
 そのまま、蝶乃さんは踵を返した。近くにある扉を荒々しく開けて、体育館から出て行った。子供っぽい人だなぁと思ったけれど、苛立ちに任せて口喧嘩を始めたのも、散々に言いくるめようとした私も子供っぽい。ぷぅ、とまた頬を膨らませてみる。


「……桐椰くんは、優しいんだよ」


 理解できないことを口にすれば理解できるかなと思ったのだけれど、幾度となく口にしても、やっぱりそれは理解できなかった。



 二年四組の試合は、当初からの優勢を崩すことなく勝利に終わった。月影くんと桐椰くんの試合が午後からと確認して、今度は松隆くんのテニスを見に行く。鹿島くんとの試合はもう始まってしまっているけれど、まさかものの数分で負けたりしているだろうか。わざわざ暑い日差しの下に出たんだから負けてたらいびってやろう、なんて意地悪なことを考えながらテニスコートへ向かう。歓声が聞こえてきたので、きっと松隆くんはまだ試合中だ。

 そして、自分の認識が甘かったことに気が付いた。松隆くんが試合をしているというのに――しかも相手は何気に女子人気のある生徒会長鹿島くんだというのに――観戦場所は女子で埋め尽くされていないことがあるだろうか、いやない。近くまで行くと、金網の外は完全に女子で埋め尽くされていた。ひょいひょいと背伸びをしてみると、さすがに審判台の隣とか、ベンチスペースに人はいない。松隆くんと鹿島くんはまだ試合をしているのが見えた。カウントはどのくらいだろう。そう思った矢先、鹿島くんがストロークを決められたところだった。


「……あれ」


 ややあって、松隆くんがボールを受け取る。松隆くんのサーブだ。審判が「ワンゼロ、松隆」と叫ぶ。あれれ? 松隆くんがサーブを打った途端にみんなは悲鳴を上げるけれど、私だけは一人首を捻った。聞き間違えたかな。

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