第二幕、御三家の嘲笑
 ぴょこんぴょこんと飛び跳ねて、女子の山の向こうにいる松隆くんを見ようとする。ボールの音は聞こえているけれど、他のコートでも試合はしてるし、松隆くんのコートからするのかは分からない。うーん、ともう一度飛び跳ねたとき――ガシャァンッと金網にボールが激突する音がした。最前列にいた女子が色めきだって、ボールを拾いにくる松隆くんを凝視している様子が見えなくとも目に浮かぶ。ついでに、私の周りにいた女子達――前に行けないということは一般生徒で比較的温厚な子が多いんだと思う――が小さな声で囁き合った。


「すごい……! タイブレークでワンオールとか、完全にあの鹿島くんと互角じゃん!」


 なん、だと……。聞き間違えてなかった。最早空いた口が塞がらない。

 なんで、インハイ出場経験者の鹿島くんと、タイブレークに(もつ)れ込んでるんだ。


「桜坂」


 呆然と突っ立っていると、呼ぶ声が聞こえた。ザッ、と女子の視線が私に向くと共に道が出来上がった。金網の向こう側の松隆くんと、二、三メートル離れた私との間に誰も立っていない。松隆くんはモーゼにでもなったのだろうか。おそるおそる見つめ返すその先のリーダーは、汗をかいて、ちょっと疲れた感じで、めり込んだボールごと金網に手をかけて、小首を傾げて笑ってみせた。


「応援、中でしてくれないんだ?」


 表情筋全てが一斉に引きつった。松隆くん、私を殺す気に違いない……。そんなことを言われたら他の観客の嫉妬の炎が燃え上がらないわけがない。分かっててやってる。なんならその仕草がめちゃくちゃ格好いいことを分かってやってる。


「腹黒……」

「何か言った?」

「いえ、一番近くで応援致します。今すぐ馳せ参じます」


 地獄耳の松隆くんに早口で答え、皆さまの睥睨を一身に浴びながらテニスコートの側に入る。他のコートも試合はしていたけれど、幸か不幸か、松隆くんが試合をするコートのベンチに向かうのに試合中のコートの後ろを通る必要はなかった。いや、幸か不幸かじゃない、不幸だ。松隆くんのタオルと飲み物と女の子からの差し入れが積まれたベンチの片隅にちょこんと座ると、コートの端から松隆くんが鼻で笑う。やっぱり女子に嫉妬される私を見て楽しんでいる。


「負けてると思ったのに……」

「残念でした。クラスマッチじゃなかったらすぐに負けてたかもね」


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