第二幕、御三家の嘲笑
 パァンッ、と軽快な音と共にゲームは再開する。鹿島くんの表情は見えないけれど、やっぱり難なく打ち返した。特に難しいコースでもなく、松隆くんも打ち返す――けれど、ネットに詰めていた鹿島くんがすかさずボレーで対応した。あ、負けた……、そう直感してちょっと背筋をぴんと伸ばしてしまったのに――松隆くんが拾った。

 ロブが上がる。鹿島くんのラケット上を通り過ぎて、弧を描いて、ストン、と地面に着地。鹿島くんのボールを辛うじて拾ったせいで松隆くんは体勢を崩し、ボールが落ちるときにそれを整えたところだった。松隆くんも鹿島くんも私もボールの着地点を見ていた。ピッ、と審判の笛が鳴る。


「アウト」


 ピーッ、と再び長く笛が鳴り、松隆くんが息切れのような小さな溜息を吐き、鹿島くん側の女子が歓声を上げた。


「ゲームセット、マッチ鹿島」


 七対六で松隆くんの負けだ。疲れた様子の松隆くんが鹿島くんと握手してる。ぼそぼそと二人の口が順番に動いて何かを喋っていたけれど、聞こえなかった。代わりに、満足そうに口角を吊り上げる鹿島くん と、無表情でそれを見つめ返す松隆くんの表情だけが見えた。何を喋っていたのだろう、じっと見つめていたけれど、松隆くんは私の元に来るまで私のことを見ようとはしなかった。そのままタオルを拾い上げて首にかけて、疲れたように私の隣に座り込んで俯いてしまった。運動直後のせいか、その体から発される熱気が伝わって来た。そして、それが伝わって来るほど松隆くんは近くにいた。


「……あの、リーダー、お疲れ様です」

「……あぁ、うん」


 疲れたね、とベンチの背に凭れかかる。拍子に、松隆くんに圧迫された女の子の差し入れが一つ地面に落ちた。松隆くんの横目が億劫そうに動いて、なんとか最小限の動きで拾い上げる。ひょいとそれをもとの位置に積み上げた。


「……鹿島くん、上手なんだねぇ」

「……まぁ、上手かったね。兄貴とどっちが上手いんだろ」

「松隆くんのお兄さんも相当上手いみたいだし、そんな人と当たるなんてついてないね」

「……ついてない、ってのはどうなんだろうね」


 言い訳をしてるみたいじゃないか、とまでは言わなかったけれど、そこまでで十分に伝わって来た。


「俺、兄貴にも一度もテニスで勝ったことないし」

「やっぱ上手なんだねぇ」

「そうだね……」

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