第二幕、御三家の嘲笑
「いいじゃんリーダー、頂上決戦が二回戦だっただけだよ。これで鹿島くんが優勝なんてした暁にはタイブレークまでいったリーダーは実質準優勝だよ」


 でしょ?と無理矢理な理屈をつけて念押しした。残念ながら人を励ますことには慣れてない。

 あぁ――そこで合点がいった――松隆くん、落ち込んでるのか。柄にもなくなんて言ったら悪いのかもしれないけれど、柄にもなく。いつも自信満々で余裕綽々で、誰かにいつでも勝ってるような雰囲気があるのに。例えば試験の順位は私より下かもしれないけれど、松隆くんがいつも勉強してないとか、試験に拘ってないことを知っていると、本気を出したこの人に勝てるのかなぁなんて思ってしまうから、勝った気にはなれなかった。

 その松隆くんは、鹿島くんに負けたのだ。


「……あぢぃ」


 肩にかけていたタオルを目蓋の上に乗せ直して、手足を投げ出して、そうぼやく松隆くんは、珍しかった。初めて見る松隆くんだった。らしくない、なんて言うのは幻想の押し付けで良くないから言わないけれど、その通りだった。


「何か飲まなくていーの?」

「いい」

「お菓子の差し入れ沢山あるけど食べる?」

「要らない」

「暑くない? お昼休憩に入るし、教室戻ろうよ」

「嫌だ」

「嫌だってなんで」


 悩みもせず、戻らないと言うでもなく、ただ嫌だという感情を吐き出した松隆くんが駄々っ子みたいで可笑しくて笑いながら返事をした。するとタオルの下で見えないはずなのに、松隆くんの目が私を見た気がした。


「俺のクラスに、桜坂はいない」


 ――頭の中に、大量の疑問符がどこからともなく躍り出た。

 何を、言ってるんだ、リーダー……。言葉の意味が分からなくて頭が大パニックになった。

 松隆くんのクラスに私がいない? そんなの当たり前だ、私は四組、松隆くんは七組、クラスが違う。……で? だから何なんだ? 教室に帰りたくない理由の話をしてたんだよね? その理由が私が松隆くんのクラスにいないから? それってつまりどういう……。


「……松隆くん、暑さで頭おかしくなった?」


 おずおずと訊ねる。そうだ、そうに違いない。格上の鹿島くんとの勝負を炎天下で長時間繰り広げて頭も身体も疲弊しきってるんだ。だから妙なことを口走ったんだ。何の理由にもなってないことを頭の中に必死に思い浮かべた。


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