第二幕、御三家の嘲笑
さっき見ていた他校生だ。それだけならきょとんとするに留まったのだけれど、さっきは分からなかった情報に思わずたじろいだ。――金髪。近くで見ると背が高くて、松隆くんと桐椰くんも見上げるくらいだから一八〇センチ弱くらい、だろうか。でも顔立ちは中性的で、身長のわりに子供みたいだった。実際、その目を輝かせた表情は純粋な子供みたいで。
「亜季!」
「え?」
「は?」
全く見覚えがなかったのだけれど、なぜかその人は私の名前を呼んだ。お陰で松隆くんと桐椰くんと揃って仲良く頓狂な声を出した。帰宅途中の生徒が何人か振り向くのが視界の隅に映る。ついでに傘を持たないほうの手を握られて目を白黒させた。
「え?」
「久しぶり、亜季! 本当に花咲高校にいたんだ」
「知り合いか?」
「ううん、全く」
「らしいから、放しくれる?」
「やだなー、酷いじゃん、亜季。俺のこと忘れちゃったなんて言わないよね?」
松隆くんの冷ややかな声にも、いよいよ眉を顰めてしまった私にも構わず、手が放される気配はない。大きくて、少しごつごつした手だった。そんな手から離れようとそろりと引いてみるけれど、一層強く握られるだけ。
「あのー……」
「俺だよ、亜季。雅だよ」
「……えっ、」
ニッ、と笑うと、綺麗な靨が出来る。見覚えなんてないと思っていた顔に既視感が生まれる。みやび……雅。名前を反芻すれば、目の前の人と記憶の中にいる人が重なった。今度は驚きで目を見開く。まさか。
「みや――」
あの頃、きっと誰よりも沢山呼んでいたその名前。それを、呼び終える前に。
ガサッ、と傘同士が触れ合う音と共に、唇は塞がれた。
一瞬、何が起こったのか分からなかった。唖然として無意識に傘を手放した次には、彼――雅の傘ごと抱きしめられるなんて随分と器用なことをされていた。
「はあー、良かった。流言だったらどーしよって思ってたから」
「え、いや、ちょっと……」
「急にいなくなって心配してたんだ。でも俺が声掛けるわけにはいかなかったから。元気だった? 激痩せとかしてなくて本当良かった。あ、髪のびた――」
「お取込み中のところ、邪魔して悪いんだけど」
ぐっ、と、私の腰に回っていた腕が押さえつけられた。左右共にだ。
「亜季!」
「え?」
「は?」
全く見覚えがなかったのだけれど、なぜかその人は私の名前を呼んだ。お陰で松隆くんと桐椰くんと揃って仲良く頓狂な声を出した。帰宅途中の生徒が何人か振り向くのが視界の隅に映る。ついでに傘を持たないほうの手を握られて目を白黒させた。
「え?」
「久しぶり、亜季! 本当に花咲高校にいたんだ」
「知り合いか?」
「ううん、全く」
「らしいから、放しくれる?」
「やだなー、酷いじゃん、亜季。俺のこと忘れちゃったなんて言わないよね?」
松隆くんの冷ややかな声にも、いよいよ眉を顰めてしまった私にも構わず、手が放される気配はない。大きくて、少しごつごつした手だった。そんな手から離れようとそろりと引いてみるけれど、一層強く握られるだけ。
「あのー……」
「俺だよ、亜季。雅だよ」
「……えっ、」
ニッ、と笑うと、綺麗な靨が出来る。見覚えなんてないと思っていた顔に既視感が生まれる。みやび……雅。名前を反芻すれば、目の前の人と記憶の中にいる人が重なった。今度は驚きで目を見開く。まさか。
「みや――」
あの頃、きっと誰よりも沢山呼んでいたその名前。それを、呼び終える前に。
ガサッ、と傘同士が触れ合う音と共に、唇は塞がれた。
一瞬、何が起こったのか分からなかった。唖然として無意識に傘を手放した次には、彼――雅の傘ごと抱きしめられるなんて随分と器用なことをされていた。
「はあー、良かった。流言だったらどーしよって思ってたから」
「え、いや、ちょっと……」
「急にいなくなって心配してたんだ。でも俺が声掛けるわけにはいかなかったから。元気だった? 激痩せとかしてなくて本当良かった。あ、髪のびた――」
「お取込み中のところ、邪魔して悪いんだけど」
ぐっ、と、私の腰に回っていた腕が押さえつけられた。左右共にだ。