第二幕、御三家の嘲笑
「何言ってんの、桜坂」


 松隆くんの口は、弧を描く。


「こっちの台詞だよ。何本気にしてんの?」


 ついでに、鼻で笑った。この程度、いつもなら流せるだろ、と。

 ひくひくと、頬が引きつった。この、クソリーダー。

 騙された苛立ちに任せてその背中に保冷剤を突っ込んでやれば「ウッ冷たっ」とこれまた珍しく驚いた声と共に松隆くんは跳ね起きる。目の上にかけていたタオルを掴み、腰の辺りから手を入れて保冷剤を回収してる。ザマーミロ。


「もう、落ち込んでるから折角励ましてあげてたのに! 性格悪いですよリーダー!!」

「はは、だって桜坂が狼狽(うろた)えてるなんて珍しいからさ」


 ついね、なんていつもの笑顔で付け加えてくる。ついね、じゃないんだよ、ついね、じゃ!

「心配して損した! 今日の松隆くん性格の悪さにいつもより更に磨きかかってるよ! 呼ばなくていいのにわざわざこんなところに来させて他の女の子の目の敵にさせるしさぁ、」

「あぁ、やっぱり分かった?」

「分かりますとも腹黒い松隆くんの考えることなんて! 女子の前で声掛けられた時点で嫌な予感はしてたよ! あぁもうっ!」


 にやにや笑うその目が私を蔑んでいる。ほら帰るよ!と立ち上がりながら促せば「まだ疲れてんだけどなぁ、」と疲弊した様子で立ち上がり、差し入れを持て余すように立ち尽くす。


「食べ物はまさかないよね」

「さっき見てたけどあったよ、プリン的なの。だからお菓子食べるって訊いたじゃん」

「真夏のベンチにプリン置く馬鹿がいるとはな」


 ご尤もだ。もしかしたら新手の毒攻めかもしれない。


「仕方ないから回収するか……」

「でも捨てるしかないじゃん」

「第六西の冷蔵庫に入れとけば遼が間違って食べるだろ」

「松隆くんは桐椰くんのことを何だと思ってるの? 残飯処理係?」

「犬」

「……ちょっとわかる」


 見た目はともかく中身は人懐っこいもんね。でもだからって腐ったプリンを冷やし直して食べさせるのはどうかと思うよ。松隆くんは心底面倒そうな表情で差し入れを唯一あった紙袋に入れてコンパクトにまとめた。ギャラリーの女子は試合が終わって少しだけ減っている。とはいえまだ残っている女子に聞こえないよう、松隆くんは小さく呟いた。


「くっそ邪魔だな、このゴミ……」

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