第二幕、御三家の嘲笑
「お菓子だよ、松隆くん。腐ってないのもあるかもしれないんだからそう言わないで」

「最早食中毒を狙った生徒会の差し金だよ。悪いけどラケット持ってくれる?」

「はいはーい」


 マネージャーよろしく松隆くんのラケットを受け取り、一緒にテニスコートを後にすれば、トーナメント表に勝ち点を書き込んでいたせいでやや遅れてやってくる鹿島くんが見えた。


「ねぇ、試合終わった後、鹿島くんと何話してたの?」

「別に、お前上手いなぁって言ってただけだよ」


 淀むことなく淡々と答えられた。表情からして、そんな平穏な会話をしていたようには見えなかったんだけど……。


「……あのさ、松隆くんと鹿島くんって何もないの?」

「何もないって?」

「こう、個人的な怨恨(えんこん)?」

「ないよ何も。松隆家と鹿島家自体は事業分野でライバル同士なのかもしれないけど、少なくとも俺個人、鹿島明貴人個人との間には何もない」


 きっぱりはっきり、松隆くんは否定した。ふむ、何もないというのならさっき交わした二人の表情は何だったんだろう……。


「じゃあ生徒会は今の御三家との関係をどう思ってるの?」

「それは駿哉が話してた通りだよ。生徒会は自分達を支配者だって譲らないし、俺達はアイツらにそんな権限(ちから)はないと思ってる」


 だとしたら、まぁ、説明がつかないこともないか……。ちょっとだけ首を傾げたけれど、まぁよしと思うことにしよう。


「ところで桜坂、遼達の試合はどんな感じ?」

「あ! そうだよ、なんで月影くんがバスケ得意だって二人共教えてくれなかったの? 一瞬カッコよく見えちゃったじゃん!」

「貶してるのか褒めてるのかどっちなの、それ」

「褒めてるということにしましょう。月影くんに怒られるのは御免です」


 笑った松隆くんはもういつも通りだった。


「その様子だと駿哉は勝ち進んでる?」

「うん。お昼の試合で桐椰くんと当たる予定だよ」

「へぇ、どっち応援するの?」

「私は二年四組だもん、桐椰くん一択だよ」


 そう、答えながら、私の心臓は一瞬緊張していた。原因は月影くんの入れ知恵だ。

『有体に言えば、アイツは君を好きなんだ』

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