第二幕、御三家の嘲笑
「桜坂は?」

「ん?」

「何かしてたの、スポーツ」

「んー、何も」


 おや、珍しい。松隆くんが情報を引き出す系統の質問をしてくるなんて。でも何も答えたくないから、コートから特に目を放さず、適当に返事をした。松隆くんは「ふぅん」と短い返事をしただけだった。

 そうこうしている内に笛の音が聞こえて、桐椰くん達の試合が始まった。松隆くんは肘をついたまま横柄な態度でコートを眺めているけれど、私は身長――正確には座高――のせいでちょっとだけ背筋を伸ばさないと様子がよく見えない。でも金髪は遠くからでもよく分かるので桐椰くんを把握する分には便利だ。どうやらジャンプボールも任されているようじゃないかと身を乗り出していると、隣の松隆くんが口を開く音がする。


「桜坂、賭けない?」

「へ?」


 何を? そう言いたくて思わず桐椰くんから目を離してしまった。松隆くんは試合を見ていない。眉を顰める私を愉しそうに眺めているだけだ。


「どっちが勝つかってこと?」

「うん」

「桐椰くんと月影くん?」

「それ以外に誰が?」


 だってほら、この後勝ったクラスが萩原くんと当たるんだから御三家と生徒会って賭けもありじゃん……。不満げに頬を膨らませている間にピッ、と笛の音が聞こえる。弾けるようにコートを見れば、二年一組ボールで再スタートするところだった。カウントは2‐0。二年四組が先制したようだ。ハイタッチのシーンでも見ていれば誰が得点したか分かったけど、それももう終わった後だった。


「見逃したじゃないですか、リーダー」

「大丈夫、決めたのは遼じゃなかったよ」

「別に桐椰くんじゃなくてもいいですよ!」


 やっぱりリーダー、月影くんと示し合わせてるだろ! そう言いたいのをぐっと堪える。松隆くんはいつも通りの食えない表情なのでやっぱり真意は分からない。


「……で、賭けるって」

「遼と駿哉、どっちが勝つか」

「……二年一組か二年四組かじゃないの?」


 個人競技じゃないんだからその言い方はおかしいじゃん、と付言すると松隆くんは少し考え込む素振りをみせる 。


「……まぁ、そうだね。じゃあ一組か四組で」

「テキトーですね、リーダー……」

「俺は駿哉――二年一組で」

「選ばせてくれないんですかリーダー!?」


< 124 / 438 >

この作品をシェア

pagetop