第二幕、御三家の嘲笑
 横暴だ。思わず下僕時代を思い出してしまった。張るのに選択させてくれないなんて横暴にもほどがある。大体このタイミングで桐椰くんのほうになんか賭けたくないのに。


「まさか四組なのに一組に張るつもりだったの?」


 それなのに松隆くんは退路を塞ぐ。つい先ほど桐椰くんを応援する理由を『二年四組なんだから』と答えてしまった私の嘘を暴くような笑みに、ぐっと押し黙らざるを得ない。


「……勿論四組一択です」

「だよね」


 口角を吊り上げるその顔、腹立たしい……!

「松隆くんって子供の頃からそうなんでしょ……前、桐椰くんが言ってたよ」

「そうでもないよ、これでも中学生の頃なんて感情剥き出しでかっこ悪いったらありゃしない子供(ガキ)だったし」

「えぇ……?」


 想像できない。絶対嘘だ、と白い目を向けるけれど、コートに視線を戻した松隆くんは「本当だよ」と口で答えるだけだった。最早感情が表情(かお)に出ている松隆くんなんて松隆くんじゃない説すらある。とはいえ、取り敢えずその話題は後回しだ。


「ところでさ、賭けは何を賭けるの? 松隆くんは私に何をくれるの?」

「勝つ前提? 言っとくけど、桜坂が思ってる以上に駿哉は上手いと思うよ」


 ふん、と松隆くんは鼻で笑う。実際、(くだん)の月影くんは今しがたシュートを決めたところだ。少しだけ見えた桐椰くんはちょっとだけ悔しそうに、嬉しそうに舌打ちしてた。少年漫画の登場人物が好敵手(ライバル)に当たったときの顔だ。なんなら武者震いでもしてるのかな。


「でも桐椰くんも運動神経はいいんでしょ?」

「まぁ桐椰家はそうだね。でもアイツがメインでやってたのは結局空手と柔道だし、何より団体戦だからね、これは」

「相変わらずぐうの音も出ない反論をするよね。ね、それで賭けって何をくれるの?」

「そうだねぇ……」


 んー、と松隆くんは試合から目を離して虚空を仰ぐ。


「何をくれるか決めてないのに賭けなんて言ったの?」

「欲しいものが先行したからさ」

「欲しいもの? 何? ……あっ、人権はあげないから!」


 まさかまた下僕になれと言うんじゃ……!と身を護る構えをしてみせると、松隆くんは真面目な顔をしてちょっと考え込む。


「……そうだね。それもいいかも……」

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