第二幕、御三家の嘲笑
「え、ちょっと待って。考え直さないで。やめて」

「でも流石に犯罪臭が拭えないよね」

「私に何させる気だったの!?」


 まさか首輪をつけて鎖で繋いで本当に犬の扱いを……? 足りない頭を捻って精一杯人権が剥奪された図を思い浮かべていると、「冗談だよ」と相変わらず冗談なのか本気なのか分からない笑みが答えた。


「そうだね。俺が勝ったら一個お願い聞いてよ」

「なにその怪しすぎる取引……。何させられるか分からないのに絶対服従みたいなのは下僕契約で十分だよ」


 思わず下僕になった時のことを思い出す。最初の命令『生徒会室に忍び込んで資料を盗んで来い』には耳を疑ったし、今でも同じことを言われたら顔が青ざめてしまう気がする。


「大丈夫、もうあんなことさせないし」


 あんなことって言っちゃったよリーダー! 酷悪な命令って分かっててやってたんじゃんリーダー!

「えー……、じゃあ私が勝ったらちょっと高級なお昼奢ってね?」

「世俗的だなぁ」

「欲が世俗的じゃないわけないじゃん」

「言うねぇ」


 スコアを確認すると、2‐6で一組がリードだ。仮にお願いを聞かされることになったら何を要求されるんだろう……。まさか松隆くんが体を寄越せと言うわけがないし。なんなら松隆くんは花高の生徒に把握されないように喧嘩と女遊びを繰り広げていた人らしいし、特に不自由もしてないだろう。……となるとやっぱり想定されるのは奴隷よろしく何かを命令されることだ。ある意味体を寄越せと言われるということで正しいのかもしれない。


「ところでさー、松隆くん、話は変わるんだけど」

「今日はよく話が変わるね」

「うるさいな……。……松隆くんは桐椰くんの初恋の人、どんな人か知らないの?」

「知らないよ、前にも話したじゃん」


 頬杖さえついていなければ肩でも竦めそうな感じで松隆くんは答えた。


「急にどうしたの」

「月影くんが話してたからさー。桐椰くんには早く彼女できてほしいって」


 試合経過を見る為に松隆くんから視線を外す。丁度桐椰くんが点を取った。


「御三家ってさ、身内にとことん甘いよね」

「身内? あぁ、御三家同士のことか。まぁ確かにそうかもね」

「月影くんがあんなに桐椰くんに優しいとは思ってもなかったよ」

「アイツはねぇ……」


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