第二幕、御三家の嘲笑
 ただ、あの桐椰くんに彼女ができるのか……。膝の上に頬杖をついてコートを眺めながら少し考えた。まぁ、御三家って言ったっていつまでも幼馴染だけで固まってるわけじゃないし、現に中学生のときもあの蝶乃さんと付き合ってたわけだし……。


「でも、彼女が出来てほしいなら見つけてしまえば手っ取り早くいいのでは? なーんてね」

「いいんだ、遼に彼女ができて?」

「……松隆くん、変わったね」


 御三家との関係が始まった頃とか、BCCの時に言われたことを思い出す。御三家の誰かと恋愛沙汰になるのはやめてくれよと再三再四忠告した松隆くんが、今日はそうではない。


「ただ確認するだけなんて、らしくない 」


 その意図を気持ち詰問してみれば、松隆くんが珍しく刮目する。ぱちぱち、と間抜けに瞬きまでして、らしくない。


「……桜坂こそ、そんな言い方するなんてらしくないね」

「んー、そうかも。お昼前に蝶乃さんと話してちょっと苛々してたから」


 まだ苛立ちを引き摺ってしまっているらしい、とちょっとだけ肩を竦めた。松隆くんは小さく「そっち か……」と呟く。そっちってどっち? そう訊ねたい気持ちはあったけれど、今日の私は松隆くんの頭の回転についていくことが出来ずに襤褸(ボロ)が出そうなのでやめておいた。月影くんにも忠告されたし。ただ、松隆くんも、鹿島くんに負けた今日ならちょっと隙を見つけられる気がする。いつも不敵な笑みを浮かべるだけ(ポーカーフェイス)のリーダーの真意を聞きだしたいなら今だ。でも、それは諸刃の剣だ。松隆くんの今日の言動の真偽なんて些細なことだ――鹿島くんに比べれば。私が誰よりも出し抜いてその思考を聞き出したいのは生徒会のリーダーだ。唇を噛みたい気持ちを抑えつつ、桐椰くんと月影くんの試合観戦に意識を戻す。それなのに、松隆くんと喋っていたせいで――ピーッという音と共に――第一クォーターは終わってしまった。スコアの差は16‐12で四組が負けている。すぐに始まった第二クォーターを見守るけれど、中々四組が得点しないままだ。これは……。


「お願い、何にしようかな」


 隣の松隆くんが歌でも歌いそうな楽しそうな様子で死刑宣告準備をする。キリキリという不快音でも立てそうな状態で私の首は回る。


「……あのさ、そのお願い、何か留保付けさせてくれない?」

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