第二幕、御三家の嘲笑
「へぇ、賭けが成立した後に条件の変更を申し出るんだ?」

「そんな言い方しないでよ! 交渉しにくくなったじゃん!」

「交渉させないために言ってるんだよ」

「……そんなに私に聞いてほしいお願いあるの?」


 この(わたくし)めに何が出来るというんですか? (へりくだ)っている様子をアピールすべく、腕をクロスに重ねて掌を胸に押し当てる。ピーッ、と第二クォーターにして最終クォーターの笛が鳴ったけれど、松隆くんは変わらぬ表情のまま淡々と口を開く。


「ほら、桜坂は頭が良いから多少何を任せてもアドリブで乗り切ってくれるだろ?」

「え、どうしたの急に褒めるなんて。照れちゃうじゃん」

「多少のことあっても動揺しないだろうし、物怖じもしないし、度胸も据わってるし。何かを頼むにはこれ以上ない人選だよ」

「えぇ……」


 それこそ動揺してしまった。松隆くんがこんなに褒めるなんて珍しい。私の日頃の恰好を無惨だと一言でばっさり切り捨てていた頃の松隆くんはどこへ行ったというのだろう。今日の松隆くんはとことん妙だ。


「ねぇ、松隆くん……鹿島くんになんて言われたの?」

「別に何も?」

「嘘だぁ。だったら松隆くんの今の様子の説明がつかないよ」

「そんなに変?」

「変。松隆くんは手放しに私を褒める人じゃないじゃん」

「じゃあ桜坂が賭けに勝ったら、昼飯食いながら話してあげるよ」

「ふーん」


 あ、桐椰くんが決めた。また誰かとハイタッチしてる。多分シルエット的に橋爪くんかな。月影くんはゼッケンの番号を四番だと覚えたので見つけやすいのだけれど、四組得点直後に何やらクラスメイトに指示なんて出してる。玄人なのは動きだけではないようだ。ドリブルしながら何か叫んでるのが聞こえる。


「あの月影くんも声を張り上げるんだね」

「真面目だからね」


 なるほど納得だ。鮮やかに素早くパスを繰り返し、月影くんのもとへボールが戻ったところで華麗にシュート。女子の黄色い歓声に私の「おおぉぉ!」という可愛げのない感嘆が混ざる。


「月影くんすごいなー! 勉強しかできないと思ってたのに感動するね!」

「そうだね。アイツにできないのは絵と歌くらいじゃない?」

「……音痴なの、月影くん」

「音痴だね」


 ばっさりと松隆くんは切り捨てた。なるほど。


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