第二幕、御三家の嘲笑
「俺らの仲間に何か用か?」


 冷え切った声とドスのきいた声がその左右から聞こえた。まさに邪魔された雅は、ピクリと動いたかと思うと、ややあって手を放す。傘を落とした私が濡れないように、その手の傘を少し傾けたまま。私から見えた雅は無表情だったけれど、桐椰くん達に見られる前にさっと笑顔になった。


「えー……何?」

「何はこっちの台詞だろ。何だよお前」

「それ、答える必要ある?」

「ああ?」


 誰に何を言われても関係ないと言わんばかりの素知らぬ態度で、雅はまず私の傘を拾い上げた。差し出されるがままに受け取る。雅の登場の仕方に二人も驚いているかもしれないけれど、狼狽えているのは私も同じだ。


「み……雅……、何でここに……」

「会いに来た。亜季は俺に何も言わずにいなくなっちゃったから」


 まるで一緒にいるのが当然のような言い方に、つんと胸の奥は痛くなる。二年前――もう二年も前か――に見たその顔には、確かに覚えがあった。でも最初に気が付かなかったのは、私の記憶の中の雅は私よりも少し背が高いくらいでちょっと小柄な男の子だったから。そして何より、こんなところに現れるとは思ってなかったから。

 罪悪感に少し喉が締まった気がした。ぱく、と池の鯉のように開いた口からは何も出て来なくて、幾度か開閉して――不意に、つい数十秒前の出来事を想起する。慌ててごしごしと唇を手の甲で拭っていると、左隣からハンカチが出てきた。有り難く受け取ると雅は顔をしかめる。


「酷いなあ、亜季。俺とのキス嫌だった?」

「寧ろなんでいいと思ったのか聞きたいよね?」

「前は許してくれたから今も許してくれるかなって」

「それとこれとは――」

「だから、二人で話を進めないでくれる?」


 松隆くんがひょいとハンカチを回収した。その声の温度は笛吹さん事件のときくらい低い。


「おい、コイツは何だ?」


 桐椰くんの声は、文化祭中に私を幕張匠の彼女だったんじゃないかと問い質したときくらい不機嫌そうだ。まあ登場の仕方が登場の仕方だから無理もない。えぇと、となんて私が言い淀んでいると、雅の目がスゥッと細くなった。ああ、怒ったときの目だ……。


「何、と言われましても」


 ぐっと、雅に肩を抱かれる。くるりと反転した体は雅と一緒に桐椰くんと松隆くんに向き直る羽目になる。


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