第二幕、御三家の嘲笑
 一組が勝つか四組が勝つかなんて最初から決まってたみたいなものだ。ただし、そのメンバー構成を把握していれば。そしてメンバー構成を把握している松隆くんにとっては今回の賭けなんて常識的に圧倒的な勝率に張るだけの――しかも巧みな言葉遣いで私から選択肢を奪ったのだから――ただの茶番もいいところ。ふっ、と松隆くんは笑みを浮かべた。


「やだなぁ、桜坂。俺は最初に訊いただろ、遼と駿哉のどっちが勝つかで賭けないかって。それをクラスで賭けなおしたのは桜坂だよ」

「うっ……」

「ま、それでもどうせ駿哉だったけどね。駿哉がいれば遼にマークつけないはずがないし、それでもって点取るために自分以外をマークに宛がうだろうし」

「…………」

「覚えておくといいよ、桜坂」


 計算し尽くされた賭けに呆然として言葉を失っていると、一組と四組との試合終了を告げる笛の音と共に、松隆くんの笑みはその腹黒さを象徴するような輝きの最高潮を迎えた。


「俺、勝率九〇パーセント以下の賭けはしない主義なんだ」


 同時に、私の人権も終わりを告げた。



「なんだ、結局総も見てたのかよ」


 試合を終了した桐椰くんは、ゲッ、なんて言いたげな顔で私達の前に現れた。暫く時間を置いて始まる月影くんの試合を見るために私と松隆くんは同じ席で待機していて、なんなら私の隣はちゃっかり空けてある。桐椰くんはペットボトル片手にそこに座り込んだ。気まずさゆえに私は気持ち動いたけれど、桐椰くんが気付いた気配はなかった。


「お疲れ、遼。残念だったね」

「顔がザマーミロって言ってんだよ、お前は。くそっ、全然点取れねーし、駿哉は上手いし……」

「桐椰くんから見ても上手いんだ」

「当たり前だろ。なんでクラスマッチのバスケで俺にマーク二人つけんだよ、おかしいだろ」

「月影くんの指示?」

「あぁ、半分くらいポイントガードやってたようなもんだしな」


 ちくしょー、と桐椰くんは頭をぐしゃぐしゃ掻き混ぜる。よく分からないけれど月影くんはMVPばりの活躍を果たしたということだろう……よく分からないけれど。


「萩原との試合、いつからだって?」

「コート空き次第だと。午前ゆとり持ってたら午後押してるらしいぜ」

「第一コートがあと二分か……」

「お前気にしてんの? 生徒会との勝負」

「……別に」


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