第二幕、御三家の嘲笑
 桐椰くんはどうでもよさそうに水分を補給する。松隆くんは短く答えた後で顔をしかめた。


「気にはなるからさ……」

「お前そういうの気にしないと思ってた」

「……そうなんだけど」

「あぁ、鹿島に負けたから?」


 グサッ、と松隆くんの胸に何かが突き刺さった。おぉ、松隆くんがダメージを食らっている……。やっぱり鹿島くんに負けたのは相当堪えたんだな。ちらりと桐椰くんにアイコンタクトを送る。松隆くん気にしてるんだから傷口に塩を塗りたくるのはやめてあげてね! だが桐椰くんの顔は意地悪く笑った。


「へぇ、何点差で負けた?」

「こらこら桐椰くん。タイブレークだったよ」

「桜坂、なんで答えた?」

「んじゃ僅差か、つまんねーな」

「試合経過は見てないけど接戦だったみたいだよ。松隆くんギャラリーが騒いでた。最後は松隆くんのロブがアウトだったんだけどね」

「桜坂」

「ま、負けたからってそう気にすんなよ。相手はインハイ出てんだからな。負けても仕方ねーな、負けても」

「でも鹿島くんは残念だったな的な顔してたからインハイ経験者に多少なりと上手いって思わせたってことだよね。それか生徒会と御三家のリーダー同士、何か思うところがあったのか――」

「桜坂」


 負けた負けたと連呼する桐椰くんと一緒になって松隆くんを虐めようとしたのだけれど、ぐっと肩を強く掴まれて言葉を切る。えへ、と茶目っ気たっぷりに振り向いたとき、松隆くんの笑顔には怒りマークが見えた。


「マジで人権無視するからね?」

「えっ、あっ、それは勘弁です! 失礼しましたリーダー!」

「人権?」

「一組と四組、どっちが勝つか賭けてたんだよ。俺が勝ったから桜坂の人権を貰った」

「違うよね!? お願い一つ聞いてあげるって言ったんだよね! 人権あげるとは言ってないよね!!」

「マジで? 便利な召使なら俺も欲しい」

「違うから! あと桐椰くんのお願いは聞かないよ!」


 御三家の中での私は仲間に昇格したはずだというのに、隙あらば下僕に降格させようとしてくる。桐椰くんは「でもコイツに何か頼んだら一々口答えしてきて鬱陶しそうだな……」と余計な想像を働かせて眉間に皺を寄せた。失礼なことだ。

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