第二幕、御三家の嘲笑
 クラスマッチが完全に終了してみんなが各教室に帰る頃、桐椰くんは「第六西でシャワー浴びて帰る」と足早にいなくなった。確かに生徒用のシャワールームは混雑するから御三家で取り合うほうが楽なのかもしれない。残念ながら私は汗をかくほど活躍もしなかったので制服に着替えれば事足りるだろう。ただ一人で教室まで帰るのは寂しいなー、ときょろきょろしていると、一緒に歩いている月影くんと松隆くんが目に入る。そう言えば月影くんは試合を終えた後見かけなかったけどどうしたのかな、と駆け寄る。


「つっきー、試合お疲れー」

「だからそのニックネームはやめろと言ったが?」


 ハーフアップにされていた髪はもう元通りになっていて、ただ結んだ痕がついてピンピン跳ねていた。しかもコンタクトなのは変わらないので、やはりいつもの月影くんとは違うままだ。


「桜坂、遼は?」

「第六西でシャワー浴びてくるって」

「あぁ、アイツ試合終わった後もずっと見てたもんな」

「松隆くんはもう浴びたの?」

「昼食べる前にね」


 あぁ、どうりで、桐椰くんと月影くんとの試合を見に来たときの松隆くんは既にいつも通りの風体だったはずだ。シャワーを浴びて着替えた後だったのか。


「俺も浴びてくるか……」

「駿哉、試合終わった後なにしてたんだ?」


 松隆くんの疑問もご尤もだ。暫く暇だったはずなのに、と二人で揃って首を傾げると、月影くんは少しだけ閉口する。


「……その後の試合を見ていた」

「はぁ、その後の試合。お前にしては珍しい行動をとったね」

「生徒会役員と一般生徒との試合が気になったからな」


 なんだ、それだけのことか。でもだったら最初に口を噤む必要なんてなかったのに、と松隆くんと仲良く顔を見合わせると、月影くんの目が少し泳ぎながら「別に負けたのを気にしていたわけではない」と言い訳を始めた。なるほど、そう思われるのを心配してたのか。


「でも気にしててもよくない? 負けず嫌いって悪いことじゃないじゃん」

「他人の試合の観戦までしているとなれば話は別だろう。負けた理由を自分の力不足以外に見つけようとしていると思われる可能性もある」

「それはつっきーの考えすぎだから大丈夫だよー」

「君の能天気な頭を分けてほしいと最近思うようになった」

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