第二幕、御三家の嘲笑
「わざわざ私を貶さなくても素直に頷いてくれればいいんだよそういう時は!」

「俺もシャワーを浴びてくる」


 体育館を出て各校舎へ向かう分かれ道、私の言葉を無視して月影くんも第六西へ向かってしまった。残されたのは私と松隆くんだ。といっても、私も女子更衣室に向かうのだけれど。


「……御三家ってさぁ、人の話聞かないよね」

「聞いてるよ。無視してるだけで」

「それ(たち)悪くない?」

「それより、桜坂と駿哉、何かあった?」

「え?」


 何か、とは……。心当たりがあるのは午前中の月影くんの忠言だけれど、あれは私と月影くんとの間柄を険悪にするような言い方ではなかったはずだ。そしてそれ以外に転がる方向も思いつかない。仮にどこかの方向へ転がっていたとしても、少なくとも私は先程の月影くんの言動からは何も読み取れていない。淡々とした喋り方も嫌味交じりの返事もいつも通りだった。


「いや……ちょっと、仲良くなったように見えたからさ」

「ナカヨク?」


 起こり得ない現象を耳にしてしまったかのような素っ頓狂な声が出てしまった。それなのに、松隆くんは顎に手を当ててそれほど的外れなことを言っているつもりはないと言わんばかり。


「気付かなかった? 喋ってる内容とか、声の抑揚の付け方も変わってただろ?」

「そんな微々たる変化に気付けるならとっくに仲良くなってるよ」


 幼馴染でもなきゃそんな違いに気が付くはずがない。実際、話しぶりはいつも通りだと思ったところだ。


「ふーん……気のせいじゃないと思ったけどな」

「松隆くんが思うなら間違いじゃないのかもしれないけど、別に何もなかったと思うよ?」


 松隆くんは釈然としないままだけれど、私には本当に心当たりはない。更に考えれば、午前中に話した時点で妙に長々と沢山話をしたとは思うけれど、それならそれ以前に何かがあったと考えるしかない。はて、何があったのか……。


「ところで桜坂」

「ん?」


 更衣室へ向かう分かれ道、松隆くんに引き留められて振り向いた。


「聞き忘れてたことが、あるんだけどさ」

「結局、桜坂は――」


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