第二幕、御三家の嘲笑
菊池(きくち)雅。亜季の元カレです」


 ああ、面倒なことになった――……。きっと背後では勝ち誇ったようににっこり笑う雅がいるんだ。心なしか周囲の人達がざわついている。無理もない、先週まで桐椰くんと付き合ってたかと思えば嘘だったし、今度は急に現れた他校生が公衆の面前で挨拶代わりにキスときた。やだな、私が悪者みたいじゃん……。

 この状態を御三家のお二人は一体どう思うのだろう。取り敢えずさっきの声は妙に不機嫌だったけれど、私に当たり散らすのだけはやめてほしいな……。と、おそるおそる傘の下から見上げると、二人は揃ってヘンなものを見てしまったかのような――世の中にはこんな趣味の悪い男がいるのかと言いたげな――目をしていた。


「お前……この煽りしか取り柄のないようなヤツと付き合ってたのか?」

「私もっと取り柄あるよね? こんなときこそBCCの成果を生かそうね!?」

「あるとしてもその無惨な恰好で台無しだろ?」

「今朝は我慢したんだから無惨なんて言わないでよ! 明日から突然変異するからね!」


 ああ――そうだ、この人達はそういう人達だった。突如現れた無粋な男子を叱ってくれるような人でもなければ、元恋人なんてワードに純粋な興味を示す人でもない。頭上の雅にさえ同情的な目を向けられる。


「えーっと……、亜季、コイツらに虐められてる……?」

(しいた)げられてる」

「心外だな、偶にからかって遊びはするけど基本的に生徒会から守ってるんだよ? 今だって家まで送り届けようとしてたし」

「松隆くんは雨だから面倒くさいって言ってたよね?」

「半分冗談だって」

「だから半分本気だよね!?」

「ま、どうでもいいけど」


 雅の声が会話を遮る。


「取り敢えず亜季を連れて帰っていい? 雨の日にこんなところで立ち話したくないんだよね」

「ご自由に。俺達だってこんなところで立ち話はごめんだ」

「ああ、元カレってんなら信用もできるだろ。じゃーな」


 松隆くんは肩を竦め、桐椰くんも興味なさそうに――せいぜい、雨の日に遠回りする手間が省けて良かったと思っただけのように――傘を持ち直し、二人で歩き出す。じゃーね、と松隆くんも通り過ぎざま声を掛けられた。手を振るために振り返れば、ドライな反応に雅もびっくりらしく、「へぇ……」と困惑した声が降ってきた。


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