第二幕、御三家の嘲笑
 ただの思い出話かと思いきや、婉曲的な物言いには顔をしかめてしまった。なんなら目の前を泳いでいたエイが通り過ぎざまにその腹を見せてしまったので、 (あくまで個人的な好みだけれど)全くもって不細工なその顔を見る羽目になってしまったのも相俟って、だ。


「……もう幕張匠にはならないの?」

「ならないし、なれないし、なる必要もないし」

「なんでなれないの?」

「高校生男子の力に敵うなんて思ってないよ」


 至極真っ当な、常識的な意見だと思う。私の身体は女子にしては少し筋肉質だけれど、男子との力の差は歴然としているくらいには平凡だ。隣に立っている雅との身長差だって実に二〇センチ弱。私の身体なんて、桐椰くんと彼方には軽々しく持ち上げられてしまう。インドア派にしか見えない細身な月影くんだって、第六西の掃除をしていると軽々と重い荷物を運べる。思わず、参考書で筋トレでもしてるんですかと訊ねてしまって、「そういう発想を脳筋と言って差し支えないか?」と冷ややかな返事をされたくらいだ。笛吹さん事件のときだって、男子に掴まれたら振り払うことすらできなかった。


「中学生の頃だって騙し騙しだったんだから……」

「でもあの頃の俺は亜季に腕相撲負けてたからなー」

「木刀のために鍛えた腕は今は見る影もありません」


 溜息交じりに両腕を伸ばせば、まるで普通の女の子のような華奢な腕が伸びる。雅が遊び半分で腕を伸ばせば、太さが私の一・五倍くらいあった。


「雅も中学生の頃は可愛かったのになー」

「女みたいってよく言われてたからなぁ。こんだけ伸びたら流石に言われなくなったけど。制服着てなかったら俺が幕張匠の彼女って言われてたかもな」


 確かに、否めない。ふふ、と笑いながら次の場所に移動する。熱帯魚がさっきより小さな空間でのんびりと泳いでいた。


「亜季、夕飯どうする?」

「帰る」

「え!? もっと悩んでよ!」

「来週ちょっと予定多いから、夏期課題に手付けたいんだよね」


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