第二幕、御三家の嘲笑
 そう、来週は松隆くんの別荘にお出かけすることになっている。どうやら八月二日が月影くんの誕生日なのでお祝いするそうだ。なんなら松隆くんと桐椰くんと一緒にプレゼントを買いに行く予定もある。私もプレゼント選びに関与したと知れたら月影くんが苦虫を噛み潰すような気がするのだけれど、二人はさも当然のように私を誘うのだから、御三家はよく分からない。


「……予定ってあの御三家?」

「うん、あの三人。雅、御三家のこと嫌いなの?」

「亜季の周りにいて鬱陶しい」

「…………」


 理由になってない、と思ったけれど、最早生理的嫌悪感に近いものが雅から溢れていたので何も言わないでおくことにしよう。


「でもいてくれると楽ちんだよー? 生徒会から虐められることもなくなったし」

「クラスメイトにプールで溺れさせられそうになったのに?」

「知ってるの?」


 別に事件になったわけでもないから他クラスの人は知らないだろうし、知ってるとしてもキレた松隆くんの態度のほうが有名な話だろうし。そんなものを外部の雅が知っているなんて、驚いて目をぱちくりさせてしまった。雅は口をへの字に曲げて気に食わなさそうな様子だった。


「あのさぁ、亜季。御三家ってマジで有名なんだよ」


 雅が初めて会いに来た日に話してくれたことだ。実際、別の高校に通う優実でさえ知っていた。「あの二人が例の御三家だったの!? サイン欲しい!」なんて興奮していて、彼等はアイドルか何かなのかなって思ってしまった。


「まぁ正確には中でもどの組み合わせが有名かってのはあるけど……」

「どういうこと?」

「松隆の坊ちゃんと彼方の弟は中学のときから有名な二人組だったから。マジであいつら腕が立つってな。だから俺達の中じゃその組み合わせが有名」

「あー、なるほどね」


 雅のいう〝俺達の中で〟というのは不良仲間の中で、ということだろう。その界隈で有名なのは松隆くんと桐椰くんで、優等生の月影くんは御三家の一人くらいにしか認識されていないということだ。


「友達 に金持のヤツいんだけどさ、そういうヤツから見たら松隆の坊ちゃんと月影の組み合わせが有名――ってか、特に意味がある組み合わせっていうか? 松隆グループの次男とその主治医の息子だから」

「なるほどなるほど」

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