第二幕、御三家の嘲笑
「あとは俺には全然関係ねーけど、勉強ガッチガチにやってるヤツなんかしたら御三家は目の上のたんこぶってやつなんじゃね?」

「え? 月影くんだけじゃないの?」


 成績上位は月影くんだけだ。彼は一年生のときから首位を独占しているし理三A判定をもぎ取り続けているといっていた。全国模試に名を連ねていても何も不思議ではない。


「あぁ、そういう話しねーの? 松隆も彼方の弟も、全国成績結構いいほうらしいよ。俺は興味ないから、噂だけどさ」

「うわー……」


 知らなかった……。いや、不思議ではない。のらりくらりしている松隆くんだけれど、あれで頭が悪いはずがない。学校の試験勉強はしないせいでそう成績が良くないのかもしれないけれど、実力テストに等しい模試を受けさせれば相対的に抜き出てもおかしくない。桐椰くんだって、中間試験が一七番だっていうから花高の偏差値も考えればそこそこかなと思っていたけれど、中間試験の試験範囲を授業でする間は停学で丸々休んでいたのだということをすっかり失念していた。なんと期末試験は六位に食い込んできて、九位の私は目を剥いた。なんなら鼻で笑われた。その結果を聞いて気が付いたのだけれど、彼方の通ってる大学だって全国で五本の指には入るのだからその弟の桐椰くんが勉強を苦手にするはずがない。結論、御三家は本当にスペックが高いのだった。


「アイツら金持ちだし、女も好きな顔だし、挙句俺達みたいな遊び方することもあんのに頭良いのってウゼーじゃん。ま、そんだけの話」


 私に共感できることではないのだけれど、確かにそうなのかもしれない。遺伝子の暴力を奮う彼等を煙たく思う人はいてもおかしくない。でも私は、松隆くんが家の(しがらみ)の苦しさなんてないかのように飄々と平気な(てい)を装っていることも、桐椰くんが父親のいない寂しさを向ける先も分からずに家事と弟の世話を黙々とこなしていることも、月影くんが未だ足りない未だ足りないと努力し続けていることを知っている。――知って、しまった。高祢高校にいたとき、御三家の噂なんて露ほども聞いたことがなかったけれど、雅と同じ立場だったらそう思ったかもしれない。なんて恵まれて、苦労もなさそうで、幸せな人達なんだろう、と。でも今はそうは思えない。


< 144 / 438 >

この作品をシェア

pagetop