第二幕、御三家の嘲笑
「んで、その有名な御三家の松隆がキレて亜季を庇ったってんだからさぁ、もう騒動待ったなしだよな」

「……納得したくないけど納得しちゃった」


 話が漸く繋がった。つくづく、松隆くんのパフォーマンスは周囲に与える影響が多大なようだ。溜息交じりに相槌を打ちながら、爬虫類コーナーにやって来る。ピクリとも動かないイグアナが完全に背景と木々に同化しているのを必死に見極めた。イグアナにそのつもりがあるのかどうか知らないけれど、そう上手く自然に溶け込まれてしまうと、捕食される側としては困ったものだ。される側も一応保護色という手段があるけれど、そうなるともうただの化かし合いだ。そんなイグアナと――合うはずがないのだけれど――目が合った気がした。ついでに、捕食者の側から、同化する背景を間違えていると鼻で笑われた気がした。私が溶け込んだ御三家は、誰かに見逃してもらう隠れ蓑なんかじゃあない。寧ろ溢れ出る存在感こそが(かなめ)で、御三家の仲間であると強く主張することで天敵から身を護っている。前者と後者と――生き残るためにはどちらが賢いのだろう、そんな馬鹿げたことを考えた。


「ま、でも亜季の口から聞けて安心した」

「何を?」

「さっき言ってただろ、いてくれると楽ちんだって。前にも言ってたじゃん、従えられてるだけだとか、そのほうが都合がいいとか」


 何でもない軽々しい言葉だったはずなのに、どうしてか、反応に窮して言葉に詰まった。その通りだ。何も間違ったことは言ってない。私がそう口にしたのは事実だ。


「アイツらと亜季との間にあるのって利害関係だろ? それなら都合悪くなったときは切り捨てちゃえばいいよね」


 本心から、口にしたはずだ。御三家と私との間には利害関係しかないんだと。


「……なんで何も言わないの、亜季」


 薄暗い館内で、雅はちょっとだけ困ったように笑った。ううん……、困った笑い方、なのだろうか。笑って、口角だって上がっているのに、その眉尻を下げて、目は笑ってなくて、それどころか――気のせいでなければ――涙が浮かんでいてもおかしくない。


「やばくなったら、何も関係なかったみたいな顔して、捨てるんだよね?」


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