第二幕、御三家の嘲笑
 ……あぁ。雅の、嫌悪感を匂わせる物言いのせいで自分の感情に気付かされてしまって、内心嘆息してしまった。そっか、たった三ヶ月弱で、私はすっかり心変わりしてしまったのかもしれない。御三家との関係を口先でどれだけ言っても、それはもう口先だけになってしまったようだ。

 そしてその台詞は、果たして本当に私と御三家の関係のことを示しているのだろうか。怒ってもらったほうが、どれだけ気が楽だろう。


「……ごめんね、雅」


 気が付いていないふりをして話題を変えたほうが良かったのだろうか。分からないけれど、こんなところで謝るなんて、私は狡い。


「何が?」

「……私は雅を捨てたね」

「……そんなことない」


 あの日、私は唐突に幕張匠を脱ぎ捨てた。前触れなんてなかった、きっかけだけがあった。それを境に雅と一緒にいることもなくなった。いつも通り学校で出くわしても、雅とは擦れ違うだけだった。雅は幕張匠でない私に話しかけないという約束を忠実に守ってくれて、それをいいことに私は何も言わないままでいた。ずっとずっと、誰よりも名前を呼んだ相手を切り捨てるようなことをしておいて、それを、切り捨てただとか、裏切りだとか言わずになんというのだろう。


「だって亜季は――幕張匠は最初からそうだった。出くわせば一緒にいるだけだ。わざわざ連絡を取って約束するどころかお互いの連絡先すら知らなかった。お互いにいつもいる場所を知ってたから一緒にいれただけだ。どっちかがいつもいる場所に行くのをやめれば終わる関係だった。そして亜季が幕張匠でいることをやめたからいつもの場所に行くのをやめて、幕張匠と菊池雅の関係は終わった。それだけだろ?」


 私の代わりに口早に説明した雅のそれは、本心だろうか、優しさだろうか。


「……それだけだよね、亜季」


 薄暗い、アマゾンの奥地に生息するような不気味な生き物たちに囲まれながら、雅の寂しい声がぽつぽつと零れる。


「俺達は何も約束しなかった。御三家と亜季みたいに契約なんてなかった。いつも会う場所にいなくなったから終わった。捨てたとか裏切ったとかじゃなくて、終わっただけだよね?」


 まるで告白でもするような静かな声が、私にとって都合の良い狡猾な答えを強請(ねだ)る。


「それだけだって言って、亜季」



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