第二幕、御三家の嘲笑
 夕方、水族館を出ると沈みかけた西日が強く差していた。朝から夕方まで、本当に日が沈むまで外は陽光に温め続けられるようだ。ぐっと雅が背伸びをする。


「あー、(あった)かい。冷房効き過ぎて寒くなかった?」

「そうかな? 私丁度良かったけど」

「その服、肩とか寒そうなのにさ。……あ、待って、こっちから帰ろ」


 夕飯は断ったわけだし、来た通りの道を駅まで帰ろうとしたのに、手を引かれて逆方向に連れていかれる。不満で頬を膨らませると「ぶらぶらして帰るくらい許してよ」なんて振り向いた雅は笑った。仕方がないなぁと、手を引かれるがままに歩く。残念ながら私には方向感覚というものがないので、来るときと別の道を通るとなれば帰りは雅に任せるしかなさそうだ。

 結局、私は雅に返事をしなかった。裏切ったんじゃないよね、なんて確認に何も返さなかった。雅は暫く返事を待ってたけれど、ややあって「行こうか」と次の場所に私を促しただけだった。今だって何事もなかったかのように私の隣を歩いている。お陰で、お昼には断ることができたのに、今は手を引かれても放すことはできなかった。罪悪感みたいなものが私の中で渦巻いていた。


「亜季、夏休み、他にどっか行くの?」

「んーん、予定はないよ。大人しく家にいる予定」

「そっか。じゃあまたどっか行ける?」

「……分かんない」


 このタイミングで訊き直したのは計算だろうか――そう考えようとして、やめた。松隆くんと喋り過ぎだ、雅はそう計算高いほうじゃないし、寧ろその逆だ。実際、「ちぇっ」なんて返しただけだった。


「そーだ亜季、亜季って成績良かったよな? 夏休みの宿題手伝って」

「えー、やだよ」

「中学のときは手伝ってくれたじゃん!」

「あれは同じ中学だったからだよ。今は高校違うんだから内容違うし、一から教えるの面倒じゃん。大体、私の答え写して行ったから先生に怪しまれてたでしょ、お前がこんなにできるはずないけどお前の友達にこんなにできるヤツもいないとかなんとか」

「そうそう、そんなこと言われたわ。失礼だよなー」


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