第二幕、御三家の嘲笑
 懐かしいね、なんて笑って、他にも「あの担任、結構言葉キツかったよな」「それで怒って殴っちゃった子いたよね」「あー、いたいた、んで警察に通報されちゃったんだよな」なんて思い出話に花を咲かせながら暫く歩いて――ふと、足を止めたくなった。でも雅が足を止めてくれない。立ち止まると、止まらない雅の手がぐんと私の手に引っ張られた。


「……どうした、亜季」


 振り向いた雅は水族館を出たときの笑顔と同じだった。

 そう、その時と、同じ。ぞく、と初めて、雅に対して背筋を震わせた。


「……ねぇ雅、どこ行くの」


 どうして気が付かなかったのだろう。視線だけで周囲を見る。いくら方向音痴の私にだって、駅に向かってないことは分かる。電車の音は遠くなっていた。街灯が少なくなっていた。人通りも少なくなっていた。

 ぐ、と、雅に掴まれている手を引っ張る。放してくれない。


「雅、」

「亜季」


 控えめなBGMのように微かに車や電車の音が聞こえる中で、私を呼ぶ雅の声がいやに響いた。嫌な予感が的中しているのか否かの答えを待ちわびるように、心臓はどくどくと鼓動する。


「ありがとう、俺を信用してくれて」

「雅、」

「あとちょっとだけ付き合って」


 ガラガラガラ、とシャッターの扉が開く音が聞こえた。数メートル先の閉まっていたシャッターが開いている。ひょいと中から男子が顔を出した。高校生……、だと思う。自信がなかったのは、その風体があまりに私達と――雅とでさえ――かけ離れていたから。ただ、仮に高校生でないとしても、少なくともその年齢は高校生と変わりなさそうだった。


「菊池」


 その人が雅の名前を呼ぶ。なんで、なんて請うような質問は言葉が喉につっかえてできなかった。


「御三家の姫って、それ?」

「あー、うん。写真とは違うと思うよ」


 写真ってなに? 違うってことは学校にいるときか――いや違う、がっかりした声音だから、おそらくこの人が見たのはBCCでドレスアップした写真だ。スクリーンに大きく顔も映し出されていたし、それなら写真を撮るのも容易だったろう。

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