第二幕、御三家の嘲笑
 一人でやって来たその人は雅より背は低いけど横に大きかった。来ているTシャツは身体に合わせて伸びているし、ハーフパンツでなければ合うサイズのパンツを探すのも大変そうだった。私を見下ろしてじろじろ眺めて、「ふーん」なんて、耳とチェーンで繋がれた唇を開く。


「こんなのが? 可愛くなくね? 替え玉じゃないだろーな」

「違う違う。んなことしたら御三家はすぐに気付くし」

「そんならいいけど」


 ぐ、と雅に手を引っ張られる。動こうとしない私に、振り向いた雅は散歩を嫌がる犬でも宥めるような顔をする。


「大丈夫だって、亜季。亜季には何もしないから」

「……私には、ってなに?」

「ってか、寧ろ今来た方が亜季は何もされないって」

「雅、何の話してるの?」


 思わず詰問するような口調になってしまったけれど、雅は表情を崩さなかった。


「なんで御三家の話が出てくるの? 替え玉使えば気付くって何? 説明して」

「亜季」

「御三家を呼ぶ餌に使いたいの?」


 黙りこくったのが答えだった。こんな状況、単純すぎて把握するのに困ることなんてない。BCCの写真を見たということは桐椰くんの隣にいる私を見たということだ。つまり私じゃなくて〝御三家の姫〟である私に用がある。ついでに、替え玉じゃ駄目だとか、御三家は気付くとか、今来たら私は何もされないとか、そんなの「餌に使います」と告白しているに等しい。〝私には〟ということは、当然裏を返せば御三家には何をするか分からない。そしてわざわざ私を使ってまで呼び出したいということはちょっと怪我させましたで済ませるつもりはないはず。つまり御三家――というよりは松隆くんか桐椰くんにやられたことがあって、その恨みを晴らしたいんだろう。今まで隙のなかった御三家が私なんていう女子を連れ始めたから今が頃合いとでも思ったのか。太った男子はゆっくり歩み寄って来て、「折角なら可愛いのが良かった」とツーブロックの赤い髪を触りながら不躾に私の顔を見ている。雅が中学生のときにつるんでいた男子の顔は少しくらい把握してるけれど、全く見覚えがないから高校になってからの知り合いだろうか。


「やだよ雅。放して」

「亜季には何もしないよ」

「私は御三家を売らない」


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