第二幕、御三家の嘲笑
「仲良さげに見えたのに、二人共随分冷たいもんだな」

「そうだね」

「元カレだと!?ってもっと慌てたら多少面白かっ――」

「はァ?」


 茶化すような雅の台詞を、声が塗りつぶす。短いその返事が、ただそれだけで笑止千万と告げていた。声の主は立ち止まり、ビニール傘越しに挑むような視線を向ける。


「昔はどうあれ、今のお前は桜坂の他人ってことだろ?」


 曇天の下で、その目は昏く光り、口角は冷笑的(シニカル)に吊り上がる。


「そんな男と俺達、どっちが上かなんて比べるまでもねーよ」


 的外れな不安を煽った雅を鼻で笑いながら、自信満々にそう吐き捨てて、松隆くんは立ち去った。桐椰くんは振り返ることすらしなかった。パラパラと小雨が降り続く、小さな口論の舞台に、私と雅だけが呆然と二人取り残される。


「……亜季」

「……なに」

「……あれ、彼氏?」

「ううん、違う」

「……怖いな」

「私もそう思う」


 顔を見合わせて、取り敢えず雅の手を肩から外す。


「……久しぶりだね、雅」

「全くだよ。丸一年は経ったよ」

「……そうだね。でも取り敢えず帰らない?」


 文句を言いたげな雅の顔よりも、周囲の視線を気にして提案する。辺りを見回した雅は周囲の視線を集めてしまっていることに気付いたようだ。頷いて私の手を引いて歩き出す。別に手を引かなくても逃げたりしないのに、信用されていないようだ。構わないといえば構わないのだけれど、女子の鋭い視線が痛くて、校門を出た辺りで引っこ抜く。雅は少し悲しそうな顔をした。まるで散歩に連れて行ってもらえない犬が尻尾を垂れ下げるようだったけれど、無視して歩けば、その表情はすぐに引っ込んだ。


「ねぇ、亜季って花高で有名なの?」

「みんなが知ってるって意味では有名だと思う」

「何で?」

「さっきの二人、花高で女子に大人気の男子だから」

「……ふぅん。じゃああんまりいい意味で有名なわけじゃないんだな」

「私がいい意味で有名になるわけないじゃん」


 はは、と渇いた笑い声が出た。それを聞いてか、雅の表情が少し曇る。


「……亜季、あれからどうした?」

「あれからっていつから?」

「……俺と別れた後」

「別に、普通に中学を卒業して、普通に公立高校に入っただけだよ」

「今は私立なのに?」

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