第二幕、御三家の嘲笑
「そうそう、んで、なんだっけ。アンタ、結構アタマいーんだって」


 ゲホッゲホゲホッ、と咳き込んで胃液を吐き出すその体を庇うように抱きしめる。じろりとリーダー格の男を睨めば、答えを待って笑っている。


「雅が私の人質で、私が雅の人質?」

「うわー、すげー、理解早いじゃん」


 ぱちぱち、とその人は気のない拍手をした。私と雅に視線を合わせるように屈んで、また煙を吹きかける。


「アンタ、御三家の姫なんだから、すぐ助けに来てもらえんだろ? んで、御三家呼ばなきゃボコられんのは菊池雅。簡単だろ?」

「……どうして言ってくれなかったの、雅」


 この人が甚振(いたぶ)りたいのは、本当は私だ。雅が幕張匠の相棒だったなんて一体どこから仕入れた情報なのかは知らないけれど、雅は黙って私を差し出せば済んだ。この人の態度から考えるに、雅から聞き出そうとしたときに殴る蹴るはやってるはずだ。その痕跡が雅にないから気が付かなかった――違う、そうだ、前回会った時にマスクをしてたのは風邪なんかじゃなくて殴られた痕を隠してたんだ。あとは服でどうにでもなる。夏服のせいで体を隠せないからある程度は消えた後だったのかもしれない。目立たないところを殴られたのかもしれない。ぎゅ、と雅のTシャツを握る。ゲホゲホと空咳を繰り返している雅の目だけが私を見た。息苦しさで涙が浮かんでいた。


「ほら、早くしてくんない?」


 まるで根性焼きの準備でもしているかのように、その人が煙草を指に挟み直してちらつかせる。雅を抱きしめたまま見上げていると、その人の目はつまらなさそうに細められた。


「そーゆー目、萎えるわー……。御三家の姫なのに菊池のオンナってんだから、そりゃそんくらい図々しいよな」

「……両方違う」

「あ? まぁどっちでもいンだけど。コイツもさぁ、馬鹿なんだよ」


 灰が零れそうな煙草の先から雅の手を逃がした。三白眼の目はあざとさを見つけたように私の手を睨むけれど、続く言葉を変えようとする気配はなかった。


「幕張の居場所吐かねーなら御三家連れて来いって言えばコロッと信じやがんの。馬鹿だよなぁ」


 その声が不穏に嗤う。


「相棒のお前にも恨みあんに決まってンだろ、菊池」

「痛ッ」


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