第二幕、御三家の嘲笑
 ダンッ、と雅の頭が踏みつけられそうになったのを慌てて腕で庇った。踏まれた鈍い痛みと砂利を擦りつけられたような痛みが腕に走って、雅が「亜季ッ」と驚いて私を庇い直す。「チッ……」と足の主はつまらなさそうな感想を漏らしながら体勢を整える。


「ま、取り敢えずはそれはいい……菊池の人質がお前で、お前の人質が菊池。いやぁ、よく出来てるわ。アンタいたら菊池は抵抗しねーわ御三家は呼べるわ、なんだっけ……一石二鳥?」


 ズキズキと左腕が痛みの脈動を伝えて来る。背中に回っていた雅の手に力が込められた。雅も解放しない理由があるなんて最悪だ。ぐっと唇を噛んでいると、ジィ、なんてチャックの音がして初めてバッグを手放してしまっていたことに気が付いた。慌てて辺りを見回すとスマホの明かりが見えて「あー、御三家ってあるある」と笑い声が聞こえた。ロックくらいかけておくべきだったと今更後悔しても遅い。


「やめて! 呼ばないで!」

「えぇ?」


 考えろ、考えろ――。必死で頭を回す。私達を助けに来た御三家が彼等に勝てる確率は? 大怪我しない確率は? いや、そもそも呼ばないで雅が助かる方法は? 答えが出ない内は呼ばないでと頼むほかないけれど、これでどれだけ時間が稼げるだろう。そしてその稼いだ時間にどのくらい意味があるだろう。


「アンタ、菊池と御三家、どっちが大事なわけ?」

「亜季、いいから呼ばせてよ」


 掠れた声の雅が耳元で囁いた。


「じゃなきゃ亜季が無事じゃすまないじゃん」

「それですむならいいじゃん」

「そんなに、御三家のこと大事なの」


 ――もう一つ、答えの出ない質問が出された。御三家のことが大事か、なんて、雅の前でなくとも安易に答えられなかった。答えられないことが答えだとでもいうように、ほんの数センチ先の雅の目に責められている気がした。


「相手八人だよ。御三家の二人なら余裕だ。亜季がいても松隆と桐椰は躊躇わないかもしれない。それなのに呼ばないのは、足手まといになるのがイヤだから?」


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