第二幕、御三家の嘲笑
 それなのに、答えは出ていた。言葉を失ってしまったのが何よりの答えだった。そんなの雅に知られたくなかった。どくどくと、心臓はずっとうるさく速く鳴っている。この場所の前にやってきて以来、普段の二倍の心拍数を消費している気がする。何かを言われるたびに、別々の緊張感に襲われている。

 ぱちぱちぱちと、手の大きさに頼った拍手に私と雅の会話は遮られた。降りかかるようなその音の主を睨みつければ、楽しそうに下卑た笑みを浮かべている。


「すげーね、お前。二股かけられてる可哀想(カワイソー)な雅クンに同情して、俺達がやられるみたいな言い方は許してやるよ」

「……二股とか、そんなんじゃない」

「ま、正直そんなことどーでもいンだけど。お前、さっさと脱いでくんない」

「は……?」


 何を馬鹿なことを、そう言いたげな声を出したのは私じゃなかった。


「亜季に、何もしないって言ったじゃねーか」

「口の利き方気をつけろよ、菊池。だから俺、何もしねーでお願いしてんじゃん」

「亜季はいるだけでいいって約束だ!」


 彼はわざとらしく手を広げて肩を竦めて惚けてみせれば、雅が声を荒げた。


「んなこと言ってねーよ。俺は手出さねーよって言っただけだろ。大体、御三家がフツーに呼んでフツーに来るわけねーじゃん」


 その通りだ。私が来てくださいと言って来るような人達じゃない。桐椰くんは釣れるかもしれないけれど、これまで散々揶揄ったんだからオオカミ少年もいいとこかもしれない。こんな目に遭ってますよー、なんて安っぽいキャッチフレーズでもいいから、画像でもないと来てくれないかもしれない。大体――ぎゅ、と拳を握りしめる――こんなところに女子を連れて来て何もしないわけがない。


「話が違う! 亜季は――」

「だからさぁ、勝手に勘違いしてんのはお前だろ、菊池」


 ぐ、っと背後から首回りを掴んで引っ張られた。私の首が締まるのをおそれた雅が手を緩めた隙に雅と離されてしまう。


「っ放して!」

「やめろよ! 亜季は関係ないだろ!」

「それこそ話が違うよなぁ、菊池」


 伸びて来た雅の手は空を切り、ガンッと痛々しい音と共に体ごと床に叩きつけられた。私は乱暴に立たされて、慣れた手つきで腕を背中に組まされ、最初から工場内にいた人達のうちの二人から顔を覗き込まれた。


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