第二幕、御三家の嘲笑
「んー、まぁ可愛くないことはない?」

「亜季に触んなッ」

「いい加減にしろよ、菊池」


 目だけで雅を見れば、一人に踏みつけられ一人に腕を掴まれ一人に頭を押さえられの形で土下座させられた雅の前にリーダー格が屈んでいた。


「お前が幕張の居場所を言いたくないっつーから、俺は譲歩した。御三家連れてくりゃ許してやるよって。連れて来るのに姫使えって。それなのにお前は姫に何もすんなって条件付けやがった。俺はもっと譲歩した――俺は手出さねぇって」

「手出さないってのはガチで何もしないってことだろ!」

「だから、お・れ・は」


 雅は気付いていなかったんだろう。ずっとずっと、最初からこの人の主語は一人称だった。この人は雅との約束を何も破ってない。この人以外が私に何をしても、雅は話が違うとは言えない。揚げ足をとられた雅が返す言葉を失うと共に横っ面を殴られた。カハッ、と雅が痛みと苦しさで空気を吐き出す。


「雅!」

「ほーら、可愛い亜季が泣いてるぜ?」


 二人の男子が「カーワイソ」なんて笑いながら、私の前で手を翳したりして遊ぶ。


「顔隠せばいけるじゃん」

「え、隠さなくてもいいじゃん? ほら、こーやったら俺結構好き」 

 顔の横を通った手がシュシュを抜き取った。髪が解けて横顔が隠れるのが分かる。


「えー、マジで? お前のストライクゾーン疑うわ」


 どうしよう――ちらりと雅を見る。また何度か殴られて、荒い呼吸を繰り返している。時々、呼吸を整えようとするのように口を閉じてぐっと瞑目している。


「さっさと幕張匠の居場所吐けよ」


 顔を逸らしたいのに、逸らせなかった。彼が求めているのは、私。

 雅は私に目も向けない。私が何かを知っていると勘繰られても困るから。それなら、せめて。


「私が言うこと聞けば、雅には何もしないの……?」

「亜季ッ!?」


 弾けるように雅が顔を上げた。突然叫んだせいでげほっ、と咳き込みながらも、激しく首を横に振る。


「やめろ亜季! 何もしなくていい! 俺のせいだから! 亜季は何も――」

「うるせぇヤツだよなぁ本当」

「みや――」

「お前もうるせぇのよ」


< 156 / 438 >

この作品をシェア

pagetop