第二幕、御三家の嘲笑
 ゴッ、と床に転がっていた雅が腹部を蹴られて、同時に押さえつけられていたのから解放されて転がった。雅の名前を叫ぼうとした私の口は大きな手に塞がれた。その手を掴んで離してと懇願するのに離してもらえない。私が無力に格闘する間も、雅はリーダーの男に胸座を掴まれ無理矢理立たされて殴り飛ばされる。蹈鞴を踏めば再び蹴り上げられて、体勢を失ったところをまた殴られて、そんなことの繰り返し。

 最後の最後に、背中から壁に叩きつけられた雅が声にならない呻き声を上げて足元から崩れ落ちた。それでもまだ飽き足らないとばかりにリーダーの男が髪を掴んで立たせる。


「あれー? 菊池くん、寝ちゃったのかなァ?」


 咥え煙草を指に挟んでちらつかせながら、その人が楽しそうに顔を覗き込んでいる。びくん、と頭の中で危険信号が鳴った。


「寝たふりしてんじゃねぇよ? 起きろよ、菊池」


 どく、と心臓が跳ね上がる。意識を失った雅の額に、リーダー格がゆっくりとその煙草を近づけようとする。駄目、駄目、駄目。ぐっと、渾身の力を振り絞って、爪が剥がれんばかりの力で私の口を塞ぐ手に爪を立てて、それを引き剥がした。


「脱ぐから!」


 その叫び声で、ぴたりと、リーダーの男の手が止まる。そのまま手も離して、崩れ落ちた雅から離れてこちらへ歩いてくる。ついでに「へぇ、」と愉しそうな笑みを私に向けた。緊張で喉がカラカラだった。


「服、脱ぐ、から……その写真、御三家に送って……もう、雅に何もしないで」


 声は震えていた。馬鹿みたいだ。


「ふぅん。じゃ、さっさと脱げば?」


 いざ言われて見れば、怯臆してしまう。でも「ほら早くしろよ」とその人は煙草を振る。どうしようも、ない。

 獲物を狙う鷹のような目に見張られながら、まずサンダルを脱ぐ。せめてもの時間稼ぎなのに、そんなの一瞬で、すぐに足の裏に冷たいコンクリートの感触が伝わって来る。突如として増した自分の台詞の現実感に心臓の鼓動が更に早くなった。ひんやり冷え切った工場内で冷や汗が噴き出た。足が震えた。手も震えた。

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