第二幕、御三家の嘲笑
 私の写真があれば、少なくとも桐椰くんは助けに来てくれるはずだ。桐椰くんは四月に十人を一方的に叩きのめした。相手は透冶くんの事件に関わってただけで喧嘩に強い人でないとはいえ、空手と柔道の有段者ならその強さを信頼できる。そして桐椰くんが来てくれるとなれば松隆くんも来てくれるだろう。そして、今の私は、無防備だし、リーダー格以外はこの状況を楽しんでいるだけのように思えるし、上手くやれば人質にならずに済むかもしれない。助けに来てくれた瞬間にこの人達から離れさえすれば二人が手を出せないことはないだろう。あとはできるだけ私が喋って、これ以上雅に危害を加えられないようにすればいいだけだ。リーダーの男に目を向ける。楽しそうに私の身体だけを見ている、その事実だけでも、既に力を失っている足が竦んだ。


「……ねぇ、幕張匠って、あなたに何したの」

「そりゃもう、菊池と一緒になって俺のことを殴るわ蹴るわ。しかも警察に突き出して自分達だけ逃げやがった。卑怯だよなァ」


 それほどまでに震えていたはずなのに、そんなことを聞いて、思わず笑ってしまった。


「……なに笑ってんだ?」

「……その幕張って人、馬鹿だなぁと思って」

「あぁ、胸糞悪いヤツだぜ?」


 だって、私は、なーんにも覚えていないのだ。この人の顔に見覚えはないし、そのエピソードにも覚えがなかった。警察に引き渡した件はない。だって自分も逮捕される確率が上がってしまうから。相手を殴って、蹴って、やり返してやるとは思っても、警察沙汰にしてやると思う人が私達みたいな中にいるとは思えない。ただ、近所の人に見られて通報されて、逃げ遅れたこの人が捕まったことはあったのかも……。もし逮捕されたのだとしたら、その後の経過がどうあれ、暫く大人しくしてて、今になって幕張匠なんんてワードを出したのもおかしくはない。となると、警察に突き出されて云々は完全に被害妄想というか、自業自得なのだけれど、事の発端が私だったことに違いはない。


「なー、御三家、既読付けねーんだけど?」

「御三家っていつも遅い?」

「桐椰くんはわりと早いよ。今は晩御飯の準備してて見れないかも」

「なんだそれ」


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