第二幕、御三家の嘲笑
「うん、なんていうんだろう、見栄……じゃないなあ、世間体ってヤツだと思う」

「……俺には何も教えてくれないの?」


 話しているように見えて、実は中身なんて何もない答え。雅はすこしだけ拗ねたような顔をした。でも仕方がない、雅だから言えないことはある。


「うん。教えられることは教えてあげるけど、駄目なことが多いかなあ」

「……亜季は、何でいなくなったの?」


 言い方は変わっても、訊ねていることは同じだ。ふぅ、と小さな溜息を吐く。


「元々高校は別だったじゃん」

「そうだけど……そうじゃなくて。いや、だからかも。高校が別だったから、俺には本当に、亜季が急にいなくなったように思えたよ」


 そうかもしれない。連絡先を教えなかった雅は、高祢高校の近くまで来ていたのかもしれない。話したことなんてなかったし、見たこともなかったけれど。それがどうして今になってわざわざ会いに来たのだろう。


「……誰に聞いたの? 私が花高に転校したって」

「んー、まあ、頑張った」

「下手な隠し方だなあ」

「亜季だって教えてくれないんだから同じことだよ。……ねぇ、さっきの二人って結局亜季の何なの?」


 剣呑な声はさっきとはまたちょっと違った色を帯びる。しかし、何と聞かれましても。うーん、と傘を通して虚空を見つめながら考える。


「主従関係?」

「え、従えてるの?」

「違うよ、従えられてるんだよ」

「亜季があ?」

「その方が都合が良いんだもん」


 くるりと傘を回す。水の飛び散った雅が迷惑そうな顔をした。


「あの二人の他にもう一人いるんだけど、その三人が御三家って呼ばれてるんだよね」

「へぇ、御三家ってアイツらなんだ」

「知ってるの?」


 てっきり眉でも顰められるかと思っていたのに、思わぬ反応に私が驚いた声を出してしまった。雅は「有名だよ」と肩を竦めてみせる。


「生徒会至上主義の花高のレジスタンスだろ? 松隆グループのお坊ちゃまと花高始まって以来の秀才と武道有段者でガチで腕が立つ不良」


 桐椰くん、武道の有段者だったのか……。そういえばよしりんさんと一緒に柔道をやっていたとは聞いたけれど。御三家の噂を反芻していた雅は「あー、確かに」と松隆くんと桐椰くんを思い出したように急に頷いた。


< 16 / 438 >

この作品をシェア

pagetop