第二幕、御三家の嘲笑
 結局、何も思いつかなかった。私と雅が揃って助かる方法なんてなかった。為すすべなくへたり込むしかないなんて、情けないにもほどがある。しかもこれは、私が招いたことだ。


「月影くんはあんまり見ないよ」

「ソイツはどーでもいいんだよ」

「御三家の中でも松隆くんと桐椰くんなんだっけ? 松隆くんは既読が付く時間が決まってるけど、この時間に連絡したことないから」


 時間を、稼がなきゃ。あの三人がここに来るまで一時間はかかるだろう。既読をつけていないだけで見ているとしても、これから一時間以内にあの三人が来ることは地理的に不可能だ。一時間もあれば、下着姿で座り込んでいる私に妙な気を起こすのも、気絶している雅が意識を取り戻してから痛めつけるのも、十分すぎる時間になる。


「さ、てと。暇だなぁ、御三家が来るまで」


 一人が私の前に屈みこみ直す。私の胸元を舐め回すように見ているその顔にどう言葉を返そう。可愛くないと嘆き続けていたから、挑発したら殴るだけで終わってくれるだろうか。喉はからからに渇いてしまって、声が上手く出なかった。


「あなた、も……幕張に、恨みがあるの?」

「いや? 俺は桐椰遼だよ」

「……桐椰くんと喧嘩したの?」

「涼しい顔して容赦しねぇからさぁ、ホント、アイツの顔が歪むの見てみたいわ」


 にぃっと弧を描いた唇の中心にピアスが刺さっていた。何か会話を続けなきゃともう一度口を開いたけれど、「それよりさぁ、」と先にその人がもう一度喋った。


「アンタ、桐椰遼のカノジョなんだって?」


 不意に、つぅ、と首から胸元をざらついた指の腹がなぞった。ゾッ――と、言いようのない恐怖が全身を駆け巡る。


「え、そーなの? 菊池は?」

「だから元カレだろ?」

「松隆は?」

「その写真が桐椰とカップルやってんじゃん?」


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